【未達中計を振り返る!次の一手は?】住友ファーマの中期経営計画の徹底解説

製薬企業分析

こんにちは、ティーダです。

2022年5月、住友ファーマの中計2022 (2018~2022年度) が未達見込みであることが発表されました。

住友ファーマの現中計は2019年4月に公開されましたが、2年後の2021年5月に下方修正されています。

しかしながら、さらに1年後の今回2022年5月に未達が発表されました。

投資家の中には、

改定した中計も達成できないなんて、経営陣は何をしているのか!?

コロナの影響も大きかったから仕方ないよね。。。

など、意見は様々です。

そこで、今回は「公開初期の中計」から「改定時の中計」「2022年度の最終業績予想」を含めて、住友ファーマの中計2022を徹底解説&振り返ります!

これを見ることで、住友ファーマの近年の動向と将来について考察可能になるでしょう!

次期中計が発表時の理解にも役立つので、一緒に勉強していきましょう!



発表当時の中計2022をざっと振り返ろう!

まずは、2019年4月に公開された中計2022 (2018~2022年度) について簡単に振り返りましょう!

本中計期間中の課題と対策

本中計の骨子

ラツーダに依存した収益体質からの脱却と持続的成長実現のため、中計期間中に抜本的改革を推進する

そして、具体的な課題と対応については以下を予定していました。

住友ファーマ中計資料を基に改変

特にポスト・ラツーダとなる製品の獲得に最も注力していたことは明らかです。

また、具体的な数値目標としては以下を上げていました。

住友ファーマ中計資料を基に改変

創薬戦略

創薬戦略としては、「重点3領域への注力+感染症領域への取り組み」を中心に進めていく方針でした。

  • 精神神経領域
    • 製品創出で蓄積してきたトランスレーショナル研究開発技術の強化
    • 自社独自の創薬技術プラットフォームの強化
  • がん領域
    • 革新的新薬創出に向けて創薬エンジンを強化
    • オンコロジーフランチャイズの早期確立
  • 再生・細胞医薬領域
    • オープンイノベーションを基に、高度な工業化・生産技術(SMaRT)と独自の成長モデルにより早期事業化
  • 感染症領域
    • 薬剤耐性(AMR)治療薬創薬や、自社ワクチンアジュバントを活用したワクチン創製

全体的にフワッとしていて、iPS細胞領域だけが具体的にプランを記載していた印象です。

ガン領域と精神神経領域は現行の延長線上の取り組みしか記載がなかったのですが、何か秘められた意図があったのでしょうか?

製品の上市目標

2019年時の発表時には以下の豊富な製品群が中計期間に上市されている予定でした。

最後に、2022年5月時点での上市予定開発品も載せているので、そちらとも比較してください!

開発品の中では「ナパブカシン」に大きな期待を寄せており、2022年度で900億円を稼ぐ想定でした。

住友ファーマ中計資料を基に改変

2021年5月での改定ポイントはどこ?

そして、2021年5月に、中計2022の改定が発表されました。

改定の最大の原因

ポスト・ ラツーダの成長ドライバーとして期待していた「ナパブカシン」のPh3失敗&開発中止

ナパブカシンの失敗によって、中計全体の戦略が大きく崩れ、営業利益を縮小しています。

住友ファーマ中計資料を基に改変

そこで、「Next ポスト・ラツーダ」のために、2019年12月にロイバント社と3200億円で戦略的提携を実施し、「レルゴリクス」および「ビベグロン」を含む多数のパイプラインを獲得しました。

製品上市目標 (2021年5月時点)

こちらが2021年5月時点での開発品の上市目標です。

最後に、2022年5月時点での上市予定開発品も載せているので、そちらとも比較してください!

住友ファーマ中計資料を基に改変

中計発表当初以降の「承認製品」と「開発中止製品」は以下です。

承認された薬の半分はロイバント社の買収によって獲得した製品です。

  • 承認
    • アポモルヒネ (販売計画下方修正)
    • ロナセンテープ (販売計画下方修正)
    • ビベグロン (ジェムテサ)
    • レルゴリクス (オルゴビクス)
  • 開発中止
    • ナパブカシン
    • SB623
    • dasotraline
    • alvocidib
    • EPI-743
    • amcasertib

今回のロイバント社の買収で獲得した製品群の中には、住友ファーマがアメリカで基盤を築いてきた精神神経領域の製品は見当たりません。

もちろん、苦渋の決断だったのでしょうが、ラツーダで築き上げた米国市場での優位性を手放して、全く新たな注力領域で戦うのは困難な道のりですね。。。



2022年度業績予想での未達ポイント

そして、2022年5月、2022年度業績予想が中計2022を達成できないことが発表されました。

中計未達の原因

コロナ流行によって、ロイバント社から導入した「レルゴリクス」および「ビベグロン」の市場浸透が遅延したため

こちらに中計の改訂前〜業績予想までの数値目標推移を上げていますが、達成できた目標が一つもないことはなかなか厳しい状態です。

住友ファーマ中計資料を基に改変

製品上市目標 (2022年5月時点)

以下には最新の上市目標を表示しています。

DSP-7888 (ガンワクチン) の開発が中止され、SEP-363856と他家iPS細胞が1年後ろにズレましたね。

他家iPS細胞については発表のたびに1年ずつ後ろにズレており、進捗もなかなか見てこないので心配ですね。。。

住友ファーマ中計資料を基に改変

機関投資家からの質問

A:中計が未達だった原因はアメリカでの売上の不調とのことだった。しかし、来期はパテントクリフもある中で、どういう戦略を進めるのか?
Q:スミトバトン社の製品 (ビベグロン、レルゴリクス等) でクリフを埋めようと考えていたが、コロナの影響もあって上市後に伸びが悪い。
米国での運営コストを下げて、ulotaront (SEP-363856) やSEP-4199等を成長させていくシナリオを立てている。

A:改定中計よりも北米で900億円の下振れが出たがなぜなのか?
Q:スミトバトン社の製品について、「医療機関への情報提供」や「患者の診察訪問が低下」によって、当初の想定を下回ってしまった。
しかし、製品自体は臨床医も好感を持っており、ポテンシャルは高いと思っている。

A:2025 年度展望としていた「コア営業利益 1200 億円」という⽔準が、ある製品および開発品群で達成できると考えていますか?
Q:オルゴビクス、マイフェンブリー、ジェムテサの3 品⽬のポテンシャルは変わってないというものの、コロナ後の売上立ち上がりスピードを踏まえて精査する必要がある。
ピークセールスについては揺るぎない自信を持っている。

未達に終わった根本的な原因は?

さて、今回中計が未達になる1次要因は大きく2つあると思います。

1次要因

① 圧倒的に期待していた「ナパブカシン」の失敗
② コロナ影響によるスミトバトン社製品の米国浸透の遅延

しかし、この根幹にある2次要因は結局、

「自社発大型製品を出せなかったこと」

だと思います。

自社創薬力の低下によって、導入品の出来に振り回され続けた中計だったと思います。

もし、自社から継続的に中型以上の新薬を出せれば、導入品の結果だけに右往左往することはなかったでしょう。
(実際、他社は自社品と導入品のバランスを上手に取っています。)

似たような状態の田辺三菱の記事も書いています!参考にしてください!

打ち手はないのか?

こっからは完全に個人的な意見ですが、今後内資製薬のような海外から見るとベンチャー規模の会社は「圧倒的・具体的なプラットフォーム」を所有して、継続的な新薬創出を目指すべきだと思います。

昔から研究していた疾患領域を「この長年積み上げてきた実績が当社のプラットフォームや!」というのは簡単ですが、それだけではこれからは世界について行けないでしょう。

ターゲットベースで創薬をする限りはクリフを何度も乗り越えにくいのは皆さん分かっていると思います。

他社の例としたら、以下の様に各社でプラットフォーム構築を進めています。

  • 中外製薬:抗体技術 & 中分子創薬
  • 第一三共:ADC技術
  • エーザイ:アルツハイマー全般
  • 協和キリン:抗体技術
  • JCRファーマ:J Brain Cargo技術
  • (構築中) アステラス製薬:細胞療法、遺伝子治療
  • (構築中) 塩野義製薬:感染症ワクチン & 治療薬

じゃあ、住友ファーマはどんなプラットフォーム構築をすれば良いの?

他家iPS細胞技術はどうでしょう?
画期的で他社が簡単にマネできないプラットフォームにならないですか?

iPS細胞技術は、時間も労力もコストもかかるので、簡単には新規参入できないモダリティですよね。

だからこそ、長年iPS細胞医療に大型投資してきた住友ファーマの逆転の一手になりそうじゃないですか?
(まあ、やってはいるんでしょうけどね。。。)

住友ファーマはiPS細胞技術への投資をさらに積極的に進めるのも良いのではないでしょうか?

iPS細胞にリソース半分集中とか?
iPS細胞技術関連の企業をもっと積極的に買収するとか?

まあ私は内情は全然分からないので、見当違いのことを言っていたらすみません。。。

個人的な見解

ラツーダ以降の自社発大型品はない!?邪推してみた

現在の皆様の唯一の救いは自社創製品 SEP-363856 (精神神経領域) が大型化する余地が残っていることだと思っています。

ここで、少し邪推します。。。

SEP-363856って、2012年11月に初めてIR資料に出てきてるんですよね。

そして、同社公開資料では起源は子会社サノビオン社が創出した自社創製品になっています。

しかし、セプラコール社 (現サノビオン社) の買収が2009年に実施されたことから、SEP-363856自体は既にセプラコール社の前臨床開発品としてあったのではないでしょうか?

これは住友ファーマが創ったと言うよりもほぼ導入品??

つまり、ラツーダ以降で住友ファーマから自社の将来を支える大型新薬は出ていないことにならないですか?

まあ、子会社が創った薬でも、買収した薬でも、良い薬ならいいんですけどね。。
現役研究職としては気になりますよね。。
研究所自体の価値が疑問視される時代ですからね。。

これ以上は触れないでおきましょう。。ただの邪推です。。

最後に

今回は、住友ファーマの中計2022を発表当初から先日の未達見込み発表まで解説してきました。

なかなか骨のある内容ですが、住友ファーマの4年間の歩みを理解出来たと思います!

なかなか厳しい現状の住友ファーマですが、今年度中に2023年以降の新中計も発表されるでしょう。

今後の経営方針等に非常に注目です。

素晴らしい企業であることは変わりないので、個人的には応援しています!

最後まで読んで頂きありがとうございました!

【絶対読むべきの書籍紹介】

製薬企業分析
スポンサーリンク
ティーダをフォローする
ティーダの製薬業界研究blog ~製薬の全てをそこに置いてきた~

コメント

タイトルとURLをコピーしました