こんにちは。ティーダです。
前回の記事に引き続き、「製薬研究の最先端トレンドを学ぶ入り口」になる書籍を紹介していきます!
今回は主に創薬研究において使用される最先端研究技術について学べる良書をまとめました!
前回のモダリティ編は以下のリンクにあるので、もしまだ読んでなかったら是非読んでください!
なぜ研究技術の発展が加速しているのか?

最近、どんどん複雑な研究手法が増えてるけど、何でだろう??
私にも必要なのかな??

それは創薬が年々難しくなっていることと比例しています。
従来の方法だけだと足りないレベルまで難易度が上がっているのですね
そこで、以下で紹介するような最先端の研究を活用し、従来は解明できていなかった疾患メカニズムや分子メカニズムを理解するような、より高度な創薬研究が必要になってます。
今後製薬企業で働く方は今回紹介する技術のどれか一つでも身につけることで、キャリア面でも大きく変わるので、是非今回の記事を入り口に勉強してみてください!
研究技術部門 良書5選
オミックス解析
私が考える近年の最も重要な創薬研究のポイントは、
臨床患者検体をどう入手して、どれだけ深く解析して、創薬に繋げるか?
だと思っています。
マウスなどを用いた病態解明・創薬研究では限界を迎えているということです。
そのため、中外製薬は大学・病院にオンサイトラボ (iFReC等) を設立していますし、他企業も医学部とのコラボレーションを非常に積極的に進めて、ヒト起点の創薬に努めています。
しかし、従来の研究手法だけではせっかく入手した貴重な臨床サンプルから一面的な情報しか得られません。
そこで、今回紹介するオミックス解析が近年台頭しています。
(今回はRNA-seqとDNA-seqを紹介しますが、他にも色々なオミックス解析が存在します。)
オミックス解析について学び始める上で勉強になる良書を厳選しました!
シングルセルRNA-seq
毎年Science誌が選ぶ、その年の最も発展的な研究に与える賞「Breakthrough of the Year」の2018年度に選ばれたのが、「シングルセルRNA-seq」です。
こちらはレゴでRNA-seqを分かりやすく表現したイラストになります。
通常私たちの脳は以下のように種々の細胞が決まった位置に存在しています。(当たり前)
しかし、従来のRNA-seqでは (bulk RNA-seq) 、脳全体を混ぜて、全体の発現するRNAを調べているだけでした。(以下図)
すると、一つ一つの細胞レベルでのRNA発現量は分かりませんし、細胞同士の位置関係も分からなくなっています。
そこで、登場したのがシングルセルRNA-seqです。
全ての細胞1つ1つに対して、RNA-seqを実施することで、各細胞ごとのRNA発現量を別々に測定することを可能にしました。(以下図)

これによって、今まで全体的に平均化されていたRNA発現の変化などを各細胞種ごとに捉えることが可能になりました。
その結果、各疾患での患者ごとの細胞の機能や活性化状態など、1検体から非常に多面的な情報を得ることが可能になりました!
既に数多くの論文でシングルセルRNA-seqは当たり前に使用されています。
今後創薬の現場でも益々多用されるでしょう!
実際、中外製薬ではiFReCを中心に年間凄まじい数のシングルセルを流しているそうです。
今のうちに原理やscRNA-seqで分かることを学ぶのは非常に有益です!
そこで、こちらの本を紹介します。
この本では、「シングルセル解析の基本原理」はもちろん、「実際の使用例」や「最先端のシングルセル解析技術の進歩」を詳細に解説している良書です。
- シングルセルゲノミクスの概要
- シングルセル解析の実例
- 発生・臓器・オルガノイド
- 免疫・がん
- iPS細胞
- 神経細胞
- ウイルス感染
- 技術プラットフォームの進歩
- マルチオミックス解析
- 蛍光イメージングとの組み合わせ
また、こちらの動画も理解を深めるのにオススメです!(10X Genomics社の公式Youtubeです!)
シングルセル空間トランスクリプトーム解析
「シングルセル空間トランスクリプトーム解析」は、2020年度のNature Method誌のMethod of the Yearとして選ばれた最先端の技術です。
先ほどお見せしたレゴを用いて再度説明します!
生体では以下の様に見える脳ですが、上で紹介した通常のシングルセルRNA-seqを行うとそれぞれの細胞同士の位置関係は全く分からなくなります。
そこで、空間トランスクリプトーム解析ではシングルセル解析を空間情報も残したままで行うことを可能にしました!
(魚拓のようにRNA-seqをするイメージです!)
その結果、各細胞ごとのRNA発現量も測定出来ますし、位置情報も残ってままで以下のような図を得ることが可能になります!
こちらは非常に高価でなかなかまだ普及はしていませんが、アカデミアでは既に実装している研究室も増えてきています。
(特に海外ではかなり進んでいますね)
今後、製薬企業でも導入が進むであろう最もホットな技術の一つです!
そこで、こちらの本を紹介します。
この本では、「空間トランスクリプトーム解析の概論とトレンド」を紹介してから、複数存在する空間トランスクリプトーム解析を手法ごとに分けて、利点と欠点を丁寧に解説されています。
- 空間トランスクリプトーム解析の概論と最新トレンド
- 広く浅く読むタイプの手法
- in situキャプチャー法 (10X Genomics社のVisium技術)
- 連続FISH法 (数十回のハイブリを繰り返す)
- 深く狭く読むタイプの手法
- LCM法 (レーザーで注目領域を切り出す)
- 光化学的な検出法 (光によって開裂するプローブを用いる)
- タンパク質の空間分析 (CODEX技術)
またまた、こちらの動画も理解を深めるのにオススメです!(10X Genomics社の公式Youtubeより)
ロングリードシーケンス
突然ですが、皆さんはロングリードシーケンスをご存じですか?
逆に従来のNGSで測定しているシーケンスをショートリードシーケンスと呼ばれているのをご存じですか?
もし知らないのなら非常に勿体ないです。。。。
今までは最大1本600bp程度しか読めなかったNGSに対して、
ロングリードシーケンスでは1本10kbp (10000bp) 以上のリードを読むことが可能です!
それによって、以下の利点があります!
- 繰り返し配列をより正確に読むことが可能
- マッピングの確実性の向上
- de novoアセンブリ (1から新規のゲノムを解読する方法) の精度が向上
- 転写産物のアイソフォームの同定
- 構造バリアントの検出
- PCRによる増殖バイアスの排除 etc…
従来では解明できなかったより複雑な生命現象に切り込む最新のツールです!
今回紹介する書籍では、「ロングリードシーケンスの原理」に加えて、実際の「Wet実験の方法」と「Dry解析の方法」が詳細に解説されています。
ロングリードシーケンスに全く馴染みがない方でも始められる内容です。
- ロングリードシーケンの原理と技術発展
- Wet実験のプロトコール
- ゲノム抽出方法 etc…
- Dry実験のプロトコール
- ゲノムアセンブリ etc…
- 発展的アプリケーションの実例
- オンサイトでの迅速細菌同定
- direct RNA-seq etc…
相互作用解析
創薬では、プロジェクトを進める際に重要になってくるのは候補化合物の作用機序・作用点を見極めることにあります。
つまり、実際の候補化合物が標的タンパク質とどのように相互作用するのかを解明することが必須になってきます。
そこで、実際に創薬現場で使用されている相互作用解析の流れをスクリーニングの段階に分けて解説してくれているのが、こちらの書籍になります
- 創薬における相互作用解析
- 低中分子創薬
- 抗体創薬
- インフォティクスを用いた相互作用解析
- AlphaFold2
- in silicoシミュレーション etc…
- その他の最先端技術
- X線結晶構造解析
- クライオ電子顕微鏡
- AIの活用
この本では低中分子創薬や抗体医薬などそれぞれのモダリティごとに製薬企業で実践されている解析を手法を説明してくれています。
さらに、「AIを用いた構造解析」や「クライオ電顕」など最先端の技術についても解説されています。
創薬研究をする上で必須の知識として勉強しておきましょう!
AIを用いたタンパク質構造解析 (AlphaFold2)
個人的に、現在最も注目している分野は「AIを用いたタンパク質構造解析」です!!
「AIによるタンパク質構造予測」はScience誌のBreakthrough of the Yearの2021年度に選ばれました。
特にAlphabet傘下のDeepMind社が開発したAlphaFold2は発表と同時に世界中の研究者 (主にTwitter) が興奮し、連日AlphaFold2の話題で持ちきりでした。
構造解析をベースとした創薬標的タンパク質の解析というのは、現在の創薬で非常に重要なツールになってきます。
これを機に学んでいきましょう!
「AlphaFold2使えます!」とか言ったら研究所中から引っ張りだこですよ!
実験自動化・遠隔化
近年は各社でDX戦略について叫ばれる中で、最も重要なテーマの一つと考えられているのが「実験のオートメーション化」です。
一番バズワードとしては「在宅研究」というのが熱いですね!
遠隔地で細胞培養や試薬調製、測定をして、測定結果を自宅で解析して、次の実験の計画を練ることに最も時間を費やす研究形態
これこそが最も理想とされる研究活動ではないでしょうか?
そこで、この本では近年の「実験の自動化・遠隔化のはじまり」を紹介し、実際の企業やアカデミアでの実施例を紹介しています。
さらに、自動化に必要とされる電子ノートやロボット技術についても丁寧に解説されています。
- 実験自動化のはじまりと概要
- 微生物発酵、有機合成、細胞製造等の自動化・機械化の実例
- AIと実験ロボの統合
- 自動分注機の現状と展望
- 電子実験ノートの始め方
- ヒト型ロボットによる自動化
- 3DプリンターによるラボDIY
実験の自動化やロボット化は最近の製薬企業のバズワードで、どこの会社も力を入れている領域です。
特に中外製薬やアステラス製薬が具体的な実例を発表していますね。
アステラス製薬のDX戦略で詳しく紹介されています。以下にまとめた記事があります。
番外編 (バイオインフォ関連の良書2選)
最後にいつも紹介しているバイオインフォ関連の書籍の中で少し勉強をした方にとって非常に有用な書籍を紹介します!
東大式 生命データサイエンス即戦力講座
こちらはプログラミング言語の入門からscRNA-seq解析までを1冊で完全網羅している書籍です!
さらに講義動画も付いているので、動画を見ながらPCを動かすことで、実践的にバイオインフォを学ぶことが可能です!
- プログラミング関連の基本
- UNIX入門
- 環境構築
- 使用方法
- Pythonによるデータ解析の基礎と実践
- Rによるデータ解析の基礎と実践
- UNIX入門
- オミックス解析の手法
- オミックス解析の準備と基本
- ゲノム解析 (DNA-seq)
- トランスクリプトーム解析 (RNA-seq)
- エピゲノム解析 (Chip-seq)
- シングルセル解析
- scRNA-seq
- scATAC-seq
- ロングリード解析
ここまで幅広く基本から発展までまとめた書籍はないので、特にある程度バイオインフォができる方にとっては非常に次のステップに進むのに価値のある本だと思います。
独習 Pythonバイオ情報解析
こちらは特にPythonにフォーカスして、bulk RNA-seqからscRNA-seqまでを一通り解説してくれている本です。
Pythonの使い方に関してはかなり細かく教えてくれるので、全く初心者の方でも本の通りに実行すればscRNA-seqの解析が可能になります!
- Pythonの基本と解析環境の構築
- pandaの使用方法
- RNA-seqデータの取り扱い (pandas実践)
- Pythonによるデータの可視化
- 統計的仮説検定
- シングルセル解析の基本と実践 (Scanpy)
私も一番最初はこの動画を見ながらscRNA-seqの解析方法を学びました!
独習と銘打つだけあって、完全な初心者には最初にオススメできる良書です!
ちなみにこちらの本は以下の動画をまとめた内容になっています。
そのため、以下の動画を見てから購入を検討しても良いかも知れません!
<2019年度第1回情報解析講習会>
https://www.genome-sci.jp/whatsnew/event/news20190809.html
最後に
今回は最近流行っていて、今後創薬研究で確実に重要になる最先端技術について紹介しました。
今回紹介した技術は、一つでも極めていれば研究者としての重宝される人材になれる技術です。
是非どれか一つでも身につけて今後の厳しい製薬業界を生き残っていきましょう!
もちろん疾患の理解も大事なのでこちらの勉強も忘れずに!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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