【環状中分子創薬のメッカ!】ペプチドリームの強みと将来性を徹底解説

ペプチドリームの強みと将来性 バイオベンチャー分析

こんにちは。ティーダです。

皆さん、突然ですが、「ペプチドリームって会社ご存じですか??」

おそらく製薬で研究者をしている方は名前だけは絶対に聞いたことあると思います。

さらに、「弊社と共同研究してるよ〜」という方も多いと思います。

でも、具体的なコア技術の詳細やペプチドリーム発の開発品の進捗などは知っていますか?

名前は聞いたことあるけど、ペプチドで創薬してる会社としか知らない

中分子創薬 (ペプチド創薬) って流行ってるけど、実際どこまで進んでるの?

という方が多いのではないですか?

そこで、今回は国内のバイオベンチャーのトップを独走する「ペプチドリーム社」の技術プラットフォームと将来性について徹底解説していきます!

こちらの記事を読むことで、現在注目されている中分子創薬におけるトップランナーの到達点を把握し、今後の自分の創薬研究に役立てて頂けたら幸いです!

ちなみに中外製薬も別の形で環状ペプチドにアプローチして、開発品を創出しています。
以下の記事でまとめているので是非ご覧ください!

中外製薬独自のアプローチも非常に面白いです!!



ペプチドリームってどんな会社?

まず、ペプチドリームの創設は2006年になります。

1990年代、東京大学の菅裕明教授 (現ペプチドリーム創業者) はペプチドで薬を創ることを目指して研究をしていました。

そこで10年以上かけて、後のペプチドリーム技術のコアとなる「RAPID(Random Peptide Integrated Discovery)システム」を構築しました。

そして、2004年当時、東京大学の別ラボで研究していたリード・パトリック氏(現ペプチドリーム代表取締役社長)と出会い、このRAPIDシステムを起点に起業を決意しました。

その後、RAPID技術を進化させたPDPS (Peptide Discovery Platform System) 技術を構築し、次々に世界中の製薬企業との共同研究を提携していきました。
(現在の提携企業は40社以上になります。)

収益モデル
  • 契約一時金:契約初期に受け取るお金
  • 創薬開発権利金、目標達成報酬金:開発品の進捗に応じて発生するお金
  • 売上ロイヤリティー:製品の上市に成功した時、売上に応じて毎年発生するお金
  • 時価総額は、2700億円 (2022年2月現在) で、製薬系バイオベンチャーとしては国内No.1
    ちなみに、沢井製薬やツムラよりも時価総額は高いです!
  • 2021年度平均年収は、976万円です。 (平均年齢:38.2歳、平均勤続年数:3.5年)
    一応新卒も採っているそうですが、主には経験者採用のようですね。

コア技術:特殊環状ペプチドの合成とスクリーニング (PDPS技術)

ペプチドを薬にするというアイデア自体は半世紀以上前からある考えです。

しかし、体内の酵素によってペプチド自体は分解されやすく、実際の薬として実用化されたペプチド医薬品はごく僅かでした。
(そして、その多くは天然物由来です。インスリンやシクロスポリン等)

そんな課題をクリアしたのが、ペプチドリームの特殊環状ペプチドと、特殊環状ペプチドを大量に合成・スクリーニングするPDPSプラットフォームです!

PDPSプラットフォーム

圧倒的多様性と安定性が高い特殊環状ペプチドを合成し、標的タンパクに対する結合を評価し、高速でヒットペプチドを同定する技術

数兆種類以上のペプチドライブラリーから候補となるペプチドの探索が可能

そんなPDPSプラットフォームを支えているのが以下の3つの技術です。

  • 人工RNA触媒 (フレキシザイム) とPDTS (ペプチドディスカバリー翻訳システム):
    フレキシザイムによって、20種類の天然型アミノ酸と400種類以上の非天然アミノ酸を網羅的に結合させることが可能です (特殊ペプチド) 。さらに、PDTSによって、無細胞でも転写翻訳を行い、特殊ペプチドの作製が可能になります。
  • ペプチドの環状化技術及び修飾技術:
    多様な鎖状ペプチドを環状化する技術です。さらにその環状ペプチドを修飾することで、スクリーニングの効率化を可能にします (特殊環状ペプチド) 。
  • PDディスプレイ:
    作製したペプチドライブラリーを高速で評価する技術です。
    他のスクリーニング技術よりも短時間かつ安定的にヒットペプチドの同定を可能にします。

特殊環状ペプチドにすることで、従来のペプチド医薬品の欠点を改善し、利点を持たせることに成功しています。

特殊環状ペプチドの利点
  • ペプチドの構造が頑丈になり、標的タンパク質に対する親和性と選択性が向上
  • 生体内での分解を受けにくく、安定に標的への到達が可能
  • 低分子では難しかったアゴニスト活性を持たせることが可能
  • タンパク質-タンパク質の相互作用を阻害する (PPI) 治療薬を見いだすことも可能

こちらは3年前の動画ですが、大まかな技術内容について紹介されている公式YouTube動画です。

さらに、こちらの本も最近出版された本で、PPIや構造解析に関して創薬研究の目線から解説されている良書です。
ペプチド創薬の最新の戦略についても載っているので参考にしてみてください!

ペプチドを活用した更なる創薬技術

ペプチドリームのペプチド創薬は、単純なペプチド治療薬だけでなく他の領域にも広がっています。

PDCs (ペプチド薬物複合体)

こちらは「ペプチド薬物複合体(PDCs)」というペプチドと低分子化合物を組み合わせた治療薬になります。

考え方はADCと同じで、抗体の代わりにペプチドを低分子化合物に結合させたデザインです。

ADCと異なる強みとしては、

  • 結合させる化合物の制限が低い
  • コストが低い
  • 固形ガンへの透過性が高い
  • 細胞内への送達が可能

が上げられています。

実際、PDCによる開発品はペプチドリーム社の研究プログラムの3割程度を占める重要なポジションになっており、力を入れている領域になります。

有望低分子化合物の獲得に活用

低分子創薬のための入り口として、特殊環状ペプチドと標的タンパク質の共結晶を取得することで、ペプチド構造を起点に有望な低分子骨格を同定する方法です。

これまでのHTS (ハイスループットスクリーニング) では発見が困難だったヒット化合物骨格を見出せる可能性があります。



提携先企業と提携の形態

ここではペプチドリームが提携している企業とそれぞれの提携形態について簡単に紹介します。

  1. 創薬共同研究開発契約:
    各社が設定した標的について、標的タンパク質の提供を受け、ペプチドリームの研究所内でPDPSを用いてヒットペプチドを探索・同定する契約
    BMS社、Amgen社、田辺三菱、第一三共、GSK社、アストラゼネカ社、ノバルティス社、Ipsen社、イーライリリー社、メルク社、サノフィ社、帝人、キョーリン、ジェネンテック社、塩野義、旭化成、ヤンセン社、バイエル社、参天、武田薬品
  2. PDPSの非独占的技術ライセンス許諾:
    各社の研究所でPDPS技術による研究を実施・活用できる契約
    BMS社、ノバルティス社、イーライリリー社、メルク社、ジェネンテック社、塩野義、ミラバイオロジクス社、大鵬薬品、ヤンセン社、小野薬品
  3. 戦略的提携による自社開発パイプラインの拡充:
    ペプチドリーム社の開発パイプラインを拡充するための技術的な提携
    JCRファーマ、モジュラス社、そーせいグループ、Biohaven社、川崎医科大、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、日本メジフィジックス社、POLA、JSR、三菱、RayzeBio社、PeptiAID社、Amolyt社

上記の企業を見て頂けば分かりますが、圧巻の提携数と企業レベルです。

現在、世界製薬企業売上高ランキング上位10社の中、6社と提携を結んでいます。
(ファイザー社は2013年にペプチドリームとの提携を解消していますね。)

ペプチドリーム由来の開発品の現状

ここからはペプチドリーム由来の開発品の現状について紹介していきます。

2021年9月末現在で治験に入っている特殊環状ペプチドは3つです。いずれもPh1の段階です。
(売上ロイヤリティー収入が入るのはもう少しかかりそうですね)

PD-L1阻害ペプチド (BMS開発) 〜BMS-986189〜

既存のPD-L1阻害抗体と同様のメカニズムのペプチド治療薬です。(ガン免疫の活性化を狙っています)

これこそ、ペプチドによるPPI (タンパク質-タンパク質間阻害) が可能かどうかを占う試金石になる重要な開発品です!
もし、この開発品が抗体と同程度の薬効を持つのならば、既存の抗体をペプチドに入れ替える動きが活発化する可能性があります!

2016年12月時点でPhase Iを完了しており、薬剤忍容性/薬物動態について、良好なデータを取得しています。
2022年早期にも新たな臨床試験を計画しています。

既存薬との差別化がどこまで可能なのかが重要になると思います。

PD-L1発現診断薬 (BMS開発) 〜BMS-986229〜

18F (フッ素) を標識したPD-L1阻害ペプチドになります。

18FのシグナルをPETによって検出し、PD-L1発現を確認することで、PD-1阻害剤やPD-L1阻害剤が有効な患者かどうかを診断する診断薬として開発を進めています。
(Ph1を実施中)

実際、PD-L1発現をオプジーボなどで測定する場合はガン組織の一部を免疫染色しています。
しかし、腫瘍の一部でのPD-L1発現しか見れていないため、診断精度に課題がありました。

この診断薬によって、腫瘍全体レベルのPD-L1発現を確認することで、より最適な患者の選抜が可能になったら革新的だと思います

考え得る課題としては、PETが測定出来る施設でしか使用できないという点ですね。。。
臨床検体と違って患者を簡単に移動できない可能性もありますし。

CD38 (Biohaven開発) 〜BHV-1100〜

「骨髄腫細胞に発現するCD38に結合するペプチド」

「IgGを介して免疫細胞による細胞障害を誘導するAGM分子」

を組み合わせて、直接腫瘍細胞を攻撃する薬剤デザインです。

2021年10月27日から「多発性骨髄腫」をターゲットにPhase1a/1b試験を開始しました。

自家NK細胞とBVH-1100を併用する短期作用型」と「BVH-1100単剤の長期作用型」という形で開発を進めていく計画です。

自家NK細胞の併用療法はなかなかハードルが高いです。。。
出来れば単剤での承認を最初に獲得したいですが、十分な薬効は出るのでしょうか?

個人的な見解

技術は素晴らしいが、現状開発品の魅力が怪しい。。。

現行開発品3つは、「難易度」「既存薬との差別化」という観点から、厳しい薬剤だと思いました。

特殊環状ペプチドで無理矢理製品を出そうとしているのかな〜と思いました。。。

さらに、R&D説明会資料の中に紹介されていた前臨床開発品も、「既存薬との差別化」という点で難しいものが多い印象です。
実際、投資家からもそのような質問が飛んでましたね。。。
(インフルエンザ薬とか低分子で十分じゃないか?ペプチドでやる価値ある?)

例えば、同じバイオベンチャーでもそーせいグループは開発後期の段階に入っている薬もあり、売上ロイヤリティーという点では有望な気がします。

中外製薬のKRAS阻害ペプチドなど、「低分子でも抗体でも狙えない標的をペプチドで狙う」という戦略での開発品が出てこない限り、ペプチド創薬に価値を見出すのは難しい気がします。

最後に

今回は「ペプチドリームのコア技術と将来性」について解説してきました。

近年注目されている中分子創薬の現状や将来性を知るための一助になれたと思います!

現時点では、もう一歩ブレイクスルーを必要としている段階だと感じました。

もし、こちらの記事が需要があるようなら、今後ペプチドリームのR&D説明会の解説記事なども書いていきたいと考えています。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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