こんにちは。ティーダです。
3社目となったベンチャー企業研究、今回はカルナバイオサイエンス社を紹介したいと思います。
同社は近年ギリアド社との大きな提携によって一躍有名ベンチャーの仲間入りを果たした企業です。
2019年6月25日、カルナバイオ社がギリアド社との新規がん免疫療法の研究開発について提携を発表https://www.carnabio.com/output/irnews/1241_ja.pdf
キナーゼを標的に創薬しているベンチャーということは知っている方も多いですが、企業の詳細について詳しく知っている方は少ないと思います。
そこで本記事を読むことで、カルナバイオ社について理解を深め、自身の研究や投資、転職などに役立てて頂けたら幸いです!
カルナバイオサイエンスってどんな会社??
成り立ちは、2003年に日本オルガノン社からキナーゼ創薬基盤技術に強みを持つメンバーがスピンアウトして設立されたベンチャーです。
創業当初はキナーゼタンパク質やキナーゼアッセイキットを製薬企業やアカデミアに提供していました。
そして、2010年に創薬研究部を創設し、がん、免疫・炎症疾患を対象としたキナーゼ創薬研究を本格的に開始しました。
約10年足らずで、既に複数の国内外製薬企業に導出実績があることから、確かなサイエンス力を持つことが分かります!
ビジネスモデル
創薬支援事業で安定的な収益を生み出し、その資金を創薬事業の革新的な先行投資に回し、導出契約等による大きな収益を得るというのが大まかなモデルです。
創薬事業
キナーゼタンパク質をターゲットとし、ガン疾患と免疫・炎症疾患に注力して研究を進めています
研究開発体制としては、化合物合成からPh2までの開発は自社でも可能で、そこからのPh3や販売等は導出先を見つけて行うというスタイルです。
もちろん早期の段階で有望な化合物は前臨床段階で導出が決まることもあります!
ギリアド社やブリッケル社との提携などはその一例ですね!
創薬支援事業
キナーゼ創薬研究に必要なキナーゼタンパク質、スクリーニング・プロファイリングサービスを製薬会
社やアカデミアに提供しています。
創薬支援事業は、2006年12月期以降継続して営業黒字を計上しており、同社の創薬における研究開発資金を稼ぎ出す基盤となっています。
362種類・457製品のキナーゼタンパク質 (2021年2月現在) を提供可能です。
この数は、世界トップメーカーのThermo Fisher Scientific社の460種類超と並ぶ世界トップクラスです。
以下のようなキナーゼ研究に特化した強みを持ちます。
- 高品質なキナーゼタンパク質作製技術(高活性型・不活性型)
- 信頼性の高いキナーゼアッセイ(測定試験受託)
- キナーゼ選択性プロファイリング:
生体内に存在する518種類のキナーゼは、それぞれが非常に似た構造をしているため、医薬品候補化合物が標的キナーゼ以外に及ぼす影響をできる限り網羅的に調べ、明らかにすることが重要です。
このキナーゼ選択性プロファイリングによって医薬品候補化合物の副作用を予見することが可能です。
カルナバイオサイエンスの強みはキナーゼに対する深い理解だ!
キナーゼ阻害薬って何??
細胞の増殖や機能を調節するタンパク質のリン酸化を担う酵素はキナーゼ (リン酸化酵素) と呼ばれます。現在、生体内に518種類のキナーゼが報告されています。
そして、キナーゼの機能異常による、タンパク質の過剰なリン酸化が、多くの疾患の原因になりうることが報告されています。
特にガンでは、種々のキナーゼの機能異常により、細胞が無秩序に増殖を繰り返すことが報告されています。
近年、このようなガン細胞特有のキナーゼを標的とした薬が開発され、それがキナーゼ阻害剤と呼ばれています。
- 低分子のキナーゼ阻害薬は医師による処方により患者自身が任意の場所で飲み薬として服用できることから身体的負担が比較的少ない。
- 化学合成により比較的安価に製造されるため薬価を低く抑えることができる。
- 細胞内にある異常キナーゼに選択的に結合して酵素活性を抑制するため、従来の抗がん剤と異なり、特に副作用が少ない。
カルナバイオ社のキナーゼ研究技術は世界トップクラス
カルナバイオ社は、キナーゼの製造・販売とその阻害薬研究の両方を行っている世界で唯一のバイオテック企業であり、豊富な知見を有することが大きな強みになっています。
さらに、カルナバイオ社の創薬支援事業の主力ユーザーは、ギリアド社やファイザー社などの数多くの海外メガファーマです。
このことからも、同社のキナーゼタンパク質の品質とプロファイリング能力に対するサイエンス力が世界的にトップレベルであることが分かります。
こうしたキナーゼに関する豊富な知見と創薬基盤技術をもとに、同社はキナーゼ阻害薬の研究を行っています。
注目パイプライン
2022年2月現在、カルナバイオ社では自社と他社共同で、複数の開発候補品があります。
また、既に臨床に入っている化合物は3つ存在します。

AS-0871 (非共有結合型BTK阻害剤):免疫・炎症疾患
こちらは現在Ph1で反復投与試験を実施中です (2022年2月現在)
BTKは、非受容体型チロシンキナーゼの1種で、B細胞の分化・増殖に関与するB細胞抗原受容体 (BCR) シグナル伝達に重要な役割をしていることが知られています。
BTKを阻害することで血液ガンの増殖を止めることが報告されています。
BTK阻害剤としては既に他社2製品が上市済みで、その内1つのイブルチニブはピーク時売上高1兆円の大型製品に成長するポテンシャルがあります (2020年:約9000億円)
そのため、先発BTK阻害剤の欠点を補った次世代型の「非共有結合型BTK阻害剤 AS-0871」は市場価値が高いと考えています。
薬効についてもBTKキナーゼへの選択性が非常に高い化合物に仕上がっています。
(類似のキナーゼへの阻害活性が低い)
非共有結合型BTK阻害剤を開発していたベンチャー2社はそれぞれメルク社やイーライリリー社に買収されていることからも次世代BTK阻害剤の価値が高いと考えています。
AS-0871は一度2015年にヤンセン社に導出後、開発権利がカルナバイオ社に返還された経緯があります。
返還理由は、
低溶解度のため、毒性試験において⼗分な安全域を取って評価することが困難で、ヤンセン社の想定より開発に時間がかかるためということでした。
しかし、様々な製剤技術を検討することで溶解度が⼤幅に向上し、毒性試験の実施が可能になったため、自社開発で進めているところです。
AS-1763 (非共有結合型BTK阻害剤):血液がん
こちらは現在健常成人へのPh1試験を完了したところです。
既存のBTK阻害剤に対して耐性を持つ血液ガンに対して薬効を示すことを期待しています。
薬効についてもBTKキナーゼへの選択性が非常に高い化合物に仕上がっています。
既にメルク社とイーライリリー社が、BTK阻害剤について、Ph2, 3試験を実施している疾患領域なので、後からの参入でどれだけシェアが取れるかが重要になってきます。
果たして導出先は見つかるのでしょうか??
中国での開発に関してはバイオノバ社に導出しており、中国での開発は任せています
AS-0141 (CDC7阻害剤):固形がん
こちらは現在、固形ガン患者に対するPh1試験を実施中です。
細胞周期に関わるキナーゼを阻害することで、抗ガン活性を示します。
AS-0141は2016年に一度シエラ社に導出しました。その後、2020年に同剤に関する全権利を返還された経緯があります。
返還理由としては、シエラ社が他製品の開発に注力するため、財源の関係で返還されたと言われています。
STINGアンタゴニスト:免疫・炎症疾患
こちらはまだ前臨床段階の化合物です。
しかし、カルナバイオ社が創製した新規STINGアンタゴニストについて、全世界における開発・商業化の独占的な権利を、ブリッケル社に供与するライセンス契約を締結しています。
こちらは強力な作用を持つ経口投与可能な化合物で、幅広く免疫・炎症疾患に対して活用できると考えています。
今後の進捗に注目です!
他社への導出品・共同研究
ギリアド社:DGK阻害剤
ギリアド社とは2019年にある脂質キナーゼ阻害剤に関する共同研究を締結しました。
しかし、当時は何をターゲットとして共同研究を行っているのか不明でした。
そして、2021年7月2日に公開された特許情報において、ギリアド社とカルナバイオ社が「DGK調節薬」について共同特許を出したことから、おそらく標的分子がDGK (ジアシルグリセロールキナーゼ) であることが報道されています。
DGKはキラーT細胞のTCRシグナルの活性化を抑制するという報告がされており、DGK阻害により免疫が活性化することが期待されます。
さらに、ガン細胞自体の増殖も抑制することから、二重の効果が期待出来ます。
特にギリアド社はガン免疫について注力しており、経口PD-L1阻害剤やCAR-Tなど複数のガン免疫創薬を実施しています。
キラーT細胞の活性化を促すDGK阻害薬は経口PD-L1阻害剤などと相性がよいと考えられ、2剤の併用も期待されているようですね〜
既にBMSなどの別のメガファーマも参入しようとしている標的分子であり今後競争も加速することが予想されます!
大日本住友製薬:精神疾患関連創薬
こちらは具体的な製品についての情報はまだないですが、2018年に最初の共同研究を結んで、その後2022年に再度契約を更新していることから、何らかの成果物が見えていることが考えられます。
大日本住友は共同研究で見出したキナーゼ阻害薬について、がんを除く全疾患を対象とした全世界の独占的開発・販売権を持つという契約になっています。
個人的な見解
確かなサイエンス力があるんだろうけど、外からは分かりにくいな〜
調べていて思ったのは、キナーゼ創薬の技術について外から分かる明確な技術プラットフォームが分からないということです。
「そーせいグループ」や「ペプチドリーム」は技術プラットフォームを元に製薬企業と提携していますが、「カルナバイオ社」には技術プラットフォームになる強みが明確に見えませんでした。
もし属人的なキナーゼ創薬のノウハウだとしたら少し提携には不向きなのかと思いました。
実際提携した会社はカルナバイオ社の技術力に満足しているのでしょうが、新規提供先を開拓するには難しい印象ですよね。。。。
もっと具体的な技術力とか創薬力を押していけばいいのに。。。勿体ないです!
開発費の捻出に懸念が大きい
ガン領域の治験には非常に開発費がかかることが知られています。
最近開発業務を始めたばかりのカルナバイオ社にそこまでのノウハウと資金力があるのかは疑問ですね。
Ph1の段階で導出先が決まればいいですが、Ph2までいってしまうとなかなか開発費に持ちこたえられるのか?
さらに、Ph2後に導出先が決まればいいけど、そこで決まらなかった場合のリスクが非常に高いビジネスのように感じましたね。。。
最後に
今回はキナーゼ創薬ベンチャーのカルナバイオサイエンス社について解説してきました。
創業10年弱で、複数の国内外の製薬企業とコラボレーションしており、サイエンス力は非常に高い企業だと思います。
しかし、現行の開発品もまだ複数が初期段階にあることから本格的に黒字化して、軌道に乗るまではまだ時間がかかりそうです!
今後の開発品の進捗に期待ですね!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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