【クリフは乗り越えられる】塩野義製薬の中期経営計画を徹底解説

塩野義の中期経営計画 製薬企業分析

今回は2020年6月1日に公表された「塩野義製薬 2021~2025年中期経営計画」について個人的な見解と最新情報を含めてまとめます!

こちらの記事を読むことで、2028年頃のドルテグラビルに関するパテントクリフをどうやって塩野義製薬が乗り越えるのかと将来の成長性が理解出来ます。

新卒就活や転職、業界研究に役立てて頂けると幸いです!

 



前回の中計の振り返り

まずは前回の中計 (2014~2020年度) を振り返ります。
以下に「2020年度の目標」と「2019年度の実績」をまとめました。

塩野義の中期経営計画
塩野義製薬の中期経営計画資料をもとに作成

【達成できたこと

  • 自社創製品の継続的創出
    • ゾフルーザ、ムルプレタ、スインプロイク、cefiderocol、cabotegravirを上市
  • ビジネスオペレーションの強化
    • コストマネジメント向上
    • 自社製品のグローバル開発、海外上市
  • 主要KPIの達成
    • 経常利益、効率性KPI、株主還元KPI

【課題】

  • 新製品の成長
    • サインバルタ、インチュニブの売上目標未達
    • ゾフルーザの耐性ウイルス出現に伴う課題
  • 海外事業の成長
    • USでの戦略品の目標未達
    • EU・中国でのビジネス基盤の整備途上

新製品売上には大きく課題を残すものの、前回中計のKPI指標をほぼ達成しました
次の成長戦略に移る段階に来たと考えています。

新中期経営計画の全体概観

基本方針と戦略

「2030年Vision ~2030年にシオノギが成し遂げたいこと~」 として、以下を打ち出しました。

「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」

具体的には、現在のロイヤリティービジネスから脱却し、
医薬品の日米中での自社販売
医療用医薬品以外の製品やサービス (OTC、ワクチン、CDMO、新プラットフォームサービス)
を強化していく計画です。

これをシオノギではHaaS企業への成長と言っています。
(HaaS:Healthcare as a Service)

そして、2030年に向けた成長戦略 (STS2030) のPhase1として、中期経営計画2021~2025年度 (STS Phase1) を設定しました。
(STS:Shionogi Transformation Strategy 2030の略)

そのSTS Phase1を達成する3つの戦略が以下になります。

  1. R&D戦略
    • 革新的パイプラインの開発促進
  2. トップライン戦略
    • 多様なビジネス構築による事業の成長
  3. 経営基盤戦略
    • 新たな価値創造を実現するための基盤づくり

上記のSTS2030をクリアすることで2028年頃にあるパテントクリフを乗り越えてシオノギが成長していけると考えています。
実際に以下の様にパテントクリフを超えられたら「2度目の手代木マジック」ですね!

(以下図が想定シナリオ)

塩野義の中期経営計画
塩野義製薬の中期経営計画資料をもとに作成

財務面での目標

以下では新中期経営計画の財務面でのKPIをまとめています。

塩野義の中期経営計画
塩野義製薬の中期経営計画資料をもとに作成

個人的な注目ポイントは、上げ幅が大きい海外売上高比率になります。
やはり、今後国内の医薬品市場が縮小することは明らかなので、海外に市場を移すことをシオノギも注力していることが分かります。

(他社でも見えている傾向です。)

しかし、シオノギも何度か海外進出を狙って買収等をしていますが、現時点で上手くいっておらず、今後の戦略に注目です。

R&D戦略

ここでは、新中計におけるR&D戦略について解説します。

新中計での注力領域は以下の3つの疾患領域です。

  • 感染症
  • 精神・神経疾患
  • 新たな成長領域 (ガン、代謝性疾患、etc)

特に感染症と精神・神経疾患をコアに、社会的ニーズの高い疾患領域にチャレンジしていく方針です。

注力パイプライン

以下の8つの開発品について、新中計での売上等に特に影響すると考えています。

塩野義のパイプライン
塩野義製薬の中期経営計画資料をもとに作成

その中でも、社長の発言やスライド構成から特に重要な製品を3つ紹介します。

  • S-531011 (制御性T細胞阻害剤)

こちらはガン領域の治療薬になります。2022年1月時点ではPh1b/2が開始した段階です。

作用メカニズムとしては、
腫瘍内の制御性T細胞 (Treg) 特異的に発現しているCCR8という分子に対する抗体を投与することで、腫瘍内Treg特異的に除去し、抗腫瘍活性を上げるというものです。

シオノギ自体は、ガンペプチドワクチンやガン免疫アジュバントを開発しており、ガン免疫に関しては長らく注力してきました。
しかし、現時点はまだガン関連製品で目立った製品は出ていません。

こちらのS-531011が長年の夢だったシオノギのガン領域への参入を押し進めると考えています。

しかし、抗CCR8抗体についてはBMSやGliadが先行して開発を進めているため、シオノギが少し遅れて開発を進める現状です。

  • S-600918

こちらは、現在以下の3つの疾患について臨床試験が実施されています。

  • 神経障害性疼痛 (Ph1)
  • 睡眠時無呼吸症候群 (Ph2)
  • 難治性・原因不明慢性咳嗽 (Ph2)

咳反射に関与する神経にP2X3受容体が発現しており、リガンドであるATPの吸入により咳反射が誘発されることが知られています。そこで、P2X3受容体アンタゴニストによって、咳の誘発を防ぐことを期待しています。

しかし、同じターゲットで同じ疾患について、メルクやバイエルが開発しており、メルクが世界初の承認を得ています。
今後海外や国内での市場をどうやって切り崩すのかが大事になります。

以下の記事で現在の治験結果等をまとめています!

  • S-005151

この薬はHMGB1類縁体の合成ペプチドで、ステムリム社から導入している開発品です。(名称:レダムセチド)

現状では非常にユニークな薬で、医師主導治験ですが臨床試験でも薬効が見えています。
複数疾患に対して効く可能性があるので売上高の潜在能力は高いと考えられます。

こちらについてもシオノギのR&D説明会資料でまとめているので是非ご覧ください!

事業戦略

こちらではR&Dだけでなく、「ビジネス目線で今後シオノギが取り組んでいく戦略」について話しています。

疾患戦略

現在の強みである治療薬の創製をコアとして、その疾患全体のケアに包括的に取り組むことを進めていく計画です。

塩野義の中期経営計画
塩野義製薬の中期経営計画資料をもとに作成

コロナを例に取ると理解しやすいかと思います。

  • 早期検出:下水疫学調査サービスの提供 (変異株も検出可能)
  • 診断:重症化診断薬 (HISCL®TARC 試薬)
  • 予防:コロナワクチン (S-268019) 、経鼻ワクチン
  • 治療:コロナ治療薬 (S-217622)、ペプチド治療薬
  • 重症化抑制:重症化抑制剤 (S-555739)

といった形でコロナウイルスという感染症を包括的にケアしている戦略が分かると思います。

これは実際他社でも見られている最近の傾向です。(参天製薬など)

グローバル戦略

ここでは各地域別での戦略について紹介されています。
シオノギが注力する地域は以下の3つに分けられています。

日本

まず国内では、インフルエンザ、コロナ、ADHDについて注力していく計画です。

特にインフルエンザについては、ストリーム・アイなどを活用して、情報から予後までをパッケージでサービス化する取り組みを進めていこうと考えています。

さらに新規参入を狙っているワクチン事業についてもまずは国内で基盤を固めていく予定です。

ストリーム・アイとは:
2019年に設立されたM3 Incとの合弁会社。疾患の予防、診断、治療のプラットフォームやソリューションを開発・提供することを目的とする。今後医薬品だけでなくヘルスケアサービス自体を患者に提供することをシオノギは目指している。

米国・欧州事業戦略

Fetroja (cefiderocol) を足がかりにしながら感染症領域でのプレゼンスを確立し、同じ呼吸器疾患であるS-600918 について慢性咳嗽を中心に展開していく計画です。

これによって、USやEUでの自社創薬品を軸とした基盤を構築していきたいと考えています。

中国

中国事業ではとにかく平安とのジョイントベンチャーを起点に市場への参入を狙っていく計画です。

まずは中国で開発したかった製品についてJVに入れ、開発を進めていきます。
さらにワクチンについても今後は入れていきたいと考えています。

また、新しい創薬の開発についても平安のビックデータやAI技術を用いてデータドリブンのR&Dを進めていく計画です。

機関投資家の質問

A:2030年で、営業利益2000億円、コア営業利益600億円というと利益率は今と変わらない想定だが、どのような売上高構成を想定しているのか?
Q:利益ベースで、自社販売が40%、ロイヤリティー収入が40%、それ以外のビジネスで20%を考えている。現在は100%がロイヤリティーになっているが、その部分を減らしていきたい。

A:前回中計で、特に「新製品の売上高」について未達が目立った。新中計ではその点をどのように修正していくのか?
Q:マーケットの作り込みが足りてなかった。いいものさえ作れば売れるだろうという、傲慢さがあったのではないか。新たに設立したヘルスケア戦略本部で今後その辺については考えていきたい。

A:2024年時点での売上高予想の中で、海外売上高が2500億円としている。具体的にどういった製品で目標を達成していくのか?その確度は?
Q:米、欧州が1250億円、中国が1250億円で考えている。8つの注力パイプラインの中で2026年ぐらいから上市する製品を3,4つほどに期待している。そのうちで最低2つが当たればパテントクリフの大部分は補えると考えている。
特に、抗CCR8抗体S-600918ワクチンHIV製品に期待している。

A:ViiVに対する投資を今後どう考えているのか?
Q:今後ジェネリックなどの関係でもViiVの収益構造も変化していく。今後考えていくべき課題だと考えている。

A:ガン領域については今後どのような位置づけで進めていくのか?
Q:2つの製品 (S-540956, S-531011) を主軸に進めていく。しかし、2製品があるからと言ってガン領域のエースにはなれないと思っている。自社品を最大活用するような組み合わせを考えて、パートナーを探していきたい。

A:特にUSで販売力強化として、M&A に関して、お考えがあるか?あるいは、どんなタイミングで、どんなことがあると、M&Aに移行するか?
Q:とにかくずっと色々な会社と継続的に対話している。アメリカでの販売とパイプラインを強化するのは非常に重要なテーマであり続けている。今後も継続的に動いてタイミングを見計らっていく予定。

A:今後の人員体制について変更していく予定はあるのか?
Q:基本的には100~120人を新卒として採用していく予定。しかし、MRとかの部門については徐々に他の仕事にシフトさせていく予定。

A:2022年度の売上高4000億円について中身を教えて欲しい。サインバルタの特許切れや、クレストールのロイヤリティー消失を考えると現時点から800億円の売上高の上がりが見えにくい。
Q:ロイヤリティーが大きく貢献できると考えている。さらに、中国のビジネスが一定の形になり、Cefiderocolの増加も乗ってくると想定している。

A:なぜ中国や東南アジアに注力していくのか?
Q:元々中国を攻めないとシオノギの成長はないだろうと長年考えていた。
以前は中国の医薬品規制が年ごとに変わってしまい参入が難しかったが、近年US企業の薬も入り始めた。その際に、平安との協業が決定し、下地ができあがったので今後本格的に参入していく予定。

A:バキュロ由来タンパク質ワクチン自体は世界的に確立されている技術なので、競合優位性はどれだけあるのか?
Q:実際、Sanofi社がすでに同技術での製品化に成功している。しかし、それ以外の会社は設備や製法を確立は出来ていない。そのため、世界でもSanofi社とシオノギしか持っていないユニークな技術として競合優位性はあると考えている。

個人的見解

全体的に理解しやすい資料構成や説明でした。中外製薬と塩野義は国内でも分かりやすい説明会をする2大製薬企業ですね。

「良いものさえ作れば売れる」は今後通用しない

投資家の質疑応答の中でも言及されていましたが、今後の創薬はただ良いものを作るだけではその製品は売れていかないことが想定されています。

研究開発の前からターゲットの領域とその患者数等の戦略の作り込みを今後一層精緻化していく必要がありそうです。
(過去もやってはいたとは思いますが。。。)

そうすると、現場レベルの研究員が研究テーマを提案する際にも、こういったマーケット分析的な視点が必要になっていき、研究者は非常に大変になります。

その結果、製薬会社は戦略だけを考えて、創薬の種自体はアカデミアやベンチャーに作ってもらうようなモデルがどんどん進んでいく可能性がありますね。。。。

中国にここまで注力している国内製薬は珍しい

主要国内製薬企業の中計や研究開発戦略を見ていますが、ここまで強く中国でのビジネスについて打ち出している国内製薬企業はないと思います。(参天製薬は結構中国に注力していますが)

その戦略がどれだけシオノギの将来を左右するのかが注目ですね。
社長の言葉を信じるならば、中国でのビジネスが2022年頃には一定の形になるそうなので近日中に形が見えてきそうですね。

もし中国で基盤を構築できたら、シオノギだけのブルーオーシャンになり得る可能性を秘めていると思います。

パテントクリフを乗り越える算段あり?!

社長の質疑で一番注目ポイントは、すでにパテントクリフを乗り越えるめどが立っているような発言ですね!

注力8製品のうちで、3~4製品の上市で現在1200億近くのロイヤリティー収入を本当に補えるのでしょうか?

確かに製品の中には価値が高い製品も含まれています。しかし、それらは同様のターゲットをメガファーマも狙っている製品が大半です。

海外開発力が低いシオノギがメガファーマに先んじて上市することは可能なのでしょうか??

最後に

2028年のパテントクリフだけが非常に懸念材料になります。

パテントクリフさえ乗り越えられれば、HaaS企業というユニークなビジョンを掲げていることや、コロナ対策への国内最速の取り組み、ペプチド創薬の開発候補品の創製など今後の将来性に非常に期待出来る会社だと思います。

コロナ創薬の結果によってもパテントクリフに影響すると思うので依然注目ですね!!

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