こんにちは、ティーダです。
皆さん、現在の創薬の成功確率ってご存じですか?
基礎研究から考えたら「3万分の1」とか、「最近難易度が上がってる」とか、以前から色々言われてると思います。
しかし、製薬業界に勤めていると、さらに以下のような疑問も持つでしょう。
疾患領域やモダリティによっても変わってくるよね?今はバイオ医薬も多いし
昔のデータはたまに見るけど、近年ではどうなんだろう?
業界で働いている方でも、具体的な最新の数字は知らない方が大半でしょう!
そこで、今回は、医薬産業政策研究所の研究レポートを基に、2022年現在の創薬成功確率について解説していきたいと思います。
今回紹介する「創薬成功確率」は「臨床試験の成功確率」を意味するので、基礎研究や前臨床段階からの成功確率は調査外です。
参考にしたのは以下の資料です。
https://www.jpma.or.jp/opir/news/066/07.html
この記事を読んで、「自身の研究テーマ」や「投資先企業のパイプライン分析」などに役立てて下さい!
先行研究での報告
まずは、最新の報告を紹介する前に、比較的古いデータで行われた「先行研究」について紹介しましょう。
紹介する3つの先行研究では、「Ph1⇒Ph2、Ph2⇒Ph3、Ph3⇒申請、申請⇒承認」における成功確率をそれぞれ求め、それらの積で「Ph1から承認までの創薬成功確率」を算出しています。
以下の図が先行研究でのデータです。
Ph1⇒Ph2については、先行研究①で他の2つの研究よりも高い傾向があります (0.74)。
これは、内資企業の方が安全性試験等の求める水準が高いため、Ph1で失敗しにくいことを示しているかも知れません。
また、Ph2は通常、ヒトを対象としてPoCを試験される最初の段階になるので、最大難易度の試験となり、成功確率は最も低くなります。
また、「大規模で費用のかかるPh3を実施するか?」を決断するため、次フェーズへの移行には、「商業的な面」など複数の理由が関係します。
Ph2成功を発表すると株価にもかなり大きな影響が出ますよね!
そして、核酸医薬、遺伝子治療、遺伝子細胞治療、ADCなどの新規モダリティの実用化に関しては2010年代以降に活発化しているため、先行研究にはあまり含まれていません。
そのことを考慮すると、モダリティ多様化に伴い、現在の創薬の成功確率は変化している可能性が大いにあります。
そこで、以下では近年の臨床成功確率を用いたデータをお示ししましょう!
最新研究の計算方法と対象期間
今回は最新研究のうち、先行研究と同様の計算方法で算出されたデータを紹介します。
つまり、各相における次相への移行確率を算出し、それらの積を取ることで「Ph1⇒承認までの成功確率」を求める方法です。
また、以下の期間を対象としたデータを使用しました。
様々なモダリティを含んだ最新のデータを用いて集計されていますね!
疾患別の創薬成功確率
まずは、疾患別の創薬成功確率を紹介します。
以下の図が、各フェーズにおける、疾患別の成功確率とPh1⇒承認までの成功確率です。
Ph1の成功確率は疾患領域別で大きな違いは認められず、約70%程度でした。
Ph1における主要評価項目は安全性や薬物動態に関するデータであることが多く、疾患領域別で大きな違いが見られないのは妥当な結果でしょう。
一方で、Ph2及びPh3における成功確率は疾患によって大きく異なっており、ここでの成功確率が最終的な成功確率に大きく影響しているようです。
最終的な成功確率については疾患によって大きくバラツキがあり、最大で約4倍の違いがありますね!
- 成功確率が低い:
がん、糖尿病、肝胆疾患、神経、精神、呼吸器 - 成功確率が高い:
血液、ホルモン、感染症
さらに、全疾患領域での成功確率は、それぞれ以下でした!
- Ph1⇒Ph2:0.67
- Ph2⇒Ph3:0.36
- Ph3⇒申請:0.55
- 申請⇒承認:0.94
- Ph1⇒承認:0.13
この数値は先行研究と概ね同程度でした。
「Ph1⇒承認までは大体10~20%位」って覚えとこう!
成功確率が低い理由
ここでは、成功確率が低い疾患について、その原因を考察してみます。
糖尿病
糖尿病に関しては、疾患別の中でも、1型糖尿病または2型糖尿病に対する開発品&承認済品が非常に多く存在することが一因でしょう。
競合品が多く開発競争が熾烈であるため、市場性を考慮する必要性が高く、成功確率が低くなっていると考えられます。
肝胆疾患
肝胆疾患では、非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) もしくは非アルコール性脂肪性肝疾 (NAFLD) を適応とする開発品が過半数を占めています。
この2疾患に絞った場合の成功確率はわずか3%程度に過ぎず、この2疾患に対する創薬難易度の高さがこの領域の成功確率の低さの大きな原因になっています。
NASHは世界中が挑戦している超高難度の疾患ですよね〜数値を見ると改めて認識出来ます。
その他 (がん、神経、精神、呼吸器)
その他の「がん、神経、精神、呼吸器」における成功確率の低さの原因としては以下が考えられます。
- ヒト病態を反映した実験動物モデルの構築が困難
- 同一疾患内で、非常にヘテロな患者が存在
- 疾患の病態メカニズムの理解が不十分
- 標的組織への医薬品の送達が困難
上記のような課題を持つ「創薬難易度が高い疾患」が数多く含まれていることが要因として考えられます。
逆に開発成功率が高い疾患では、病態メカの理解が進んでいたり、動物モデルが上手く構築出来ているのでしょうね!
モダリティ別の創薬成功確率
次に、モダリティ別の創薬成功確率を紹介します。
各フェーズでの成功確率 (モダリティ別)
以下の図が、「各フェーズでのモダリティ別の成功確率」です。
Ph1の成功確率は、どのモダリティも約70%程度でした。
Ph2の成功確率は、どのモダリティにおいても他フェーズの成功確率に比べて最も低く、最も難易度が高いという結果でした。
Ph3の成功確率はモダリティ間での差が大きく、低分子化合物では約50%でした。
Ph3の成功確率が高いのは、抗体医薬、遺伝子細胞治療、その他でした。
抗体医薬については、モダリティとして成熟してきており、開発戦略が確立したことで成功確率が高まっていると考えられます。
遺伝子細胞治療については、サンプル数が少ないために断定的ではないものの、Ph2で顕著な有効性が確認出来た後に、確度の高いPh3を実施出来ていると考えられます。
Ph1⇒承認までの成功確率 (モダリティ別)
以下の図が、「モダリティ別のPh1⇒承認までの成功確率」です。
Ph1⇒承認までの成功確率は、全モダリティでは約13%でした。
(全体は疾患別と一致しますよね)
全モダリティの過半数を占める低分子医薬では、約10%で全体をやや下回っていました。
抗体医薬では約21%と比較的高い成功確率であり、モダリティ別では最も高い成功確率を誇っていました。
その他の成功確率は約21%と高値ですが、ここには様々なモダリティ (天然物、ゲノム編集など) が含まれており、特に診断薬や血漿分画製剤の成功確率が高く、その他全体としての成功確率を高めていました。
最近はマルチモダリティ戦略を取る企業が多く、最適なモダリティを自社内で選べる環境を整えてますよね!
個人的な見解
基礎研究から考えるとさらに成功確率は低い
今回の研究では、Ph1以降の成功確率の分析を行いましたが、実際には基礎研究着手時からPh1に至るまでの過程で断念するプロジェクトも相当数存在します。
このことを考慮に入れると、実質的な成功確率は今回報告の数値より遥かに低いと考えられますね。
(当たり前ですが、、、)
それでも、「開発段階までプロジェクトを進めれば10~20%で成功する!」と考えると漠然と「創薬の成功確率は低いからね〜」って思ってた時よりも心持ちは変わりますよね〜
最も成功確率が高い「疾患×モダリティの組み合わせ」は?
やっぱり研究者からすると今後疾患やモダリティを選ぶ上で、成功確率が高い開発品を生み出したいですよね!
そうなると「成功確率の高い疾患とモダリティの組み合わせ」は例えば以下のようなペアになるのではないでしょうか?
- 血液疾患 × 抗体医薬 (例:ヘムライブラ)
- ホルモン疾患 × タンパク製剤
- 外科疾患 × タンパク製剤
- 感染症 × 抗体医薬
もちろん、他の要因が複雑の絡み合うので疾患とモダリティのペアだけでは優先度は決まりません。思考実験です!
最後に
今回は創薬の成功確率 (臨床試験の成功確率) について、モダリティと疾患の2つの視点から最新の研究を紹介しました。
今日の話で覚えとくと良いことは、
- Ph1⇒承認までの成功確率は大体10~20%
- 最も成功確率が高いモダリティは抗体医薬
- 疾患によって成功確率は大きく異なる (最大4倍違う!)
という3点かと思います。
実際に自分が担当している疾患や、自社が保有するモダリティは各自で異なると思いますが、上記の3点については覚えておいても損はない事実だと思います。
私も自社の開発品などを見る上で参考にしていきます!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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