2021年10月7日に参天製薬のR&D説明会である製品創製説明会が開催されました。
今回はその説明会について内容をまとめて、個人的見解も含めて書いていこうと思います。
参天製薬は眼領域に特化したスペシャリティー企業です。
海外での事業展開も比較的進んでおり、経営陣にも外国人の起用が進んでいます。
今回の説明会では「現状パイプラインに関する臨床データ」と、「将来的に参天が狙っていく領域」について注力して説明されています。
この記事を読むことで、「参天製薬の直近での動向」を確認することが出来ます。
新卒就活や転職活動、業界研究に役立ててもらえると幸いです!
説明会資料のリンクはこちらになります。https://www.santen.co.jp/ja/ir/document/pdf/202203/mtg_RDday_Presentation_Oct2021.pdf
全体概観
参天製薬が2021-2025年の中期経営計画で打ち出している目標は
「真のグローバル眼科Rx企業への変革」
です。
具体的な目標としては以下を挙げています。
- 基盤事業プラットフォームとEyevance社の基盤を活用して米国眼科薬市場に参入
- 将来の成長分野である細胞・遺伝子治療技術、自由診療市場向け製品、デジタルヘルス領域に着手
そこで、参天製薬は眼領域において、
- 啓発・通院
- 検査・診断
- 薬物治療
の眼疾患のプロセス全てを包括的にカバーすることを目指しています。
(この包括的なカバーは塩野義製薬の感染症へのアプローチと似ていますね)
患者ニーズに基づいたパイプライン拡充
ここでは参天製薬の基礎研究レベルでの取り組みや計画について説明しています。
ニーズ探索
製薬業界では、新規患者ニーズの探索と掘り起こしが近年重要視されています。
そこで、参天製薬では、全世界1000人以上の患者から眼領域に関してアンメットニーズを収集し、2000以上の気づきを得ることに成功しています。
今後も市場の潜在的なニーズを常時探索することで将来的な疾患戦略に生かそうと考えています。
疾患戦略
こちらでは参天製薬の今後の疾患戦略について触れられています。
「基盤事業」、「新規事業」の2つの事業に分けて説明されています。
基盤事業
これは緑内障やアレルギー疾患、ドライアイといった既に上市に成功している領域です。
これらの治療領域においては今後製品価値の最大化と差別化を重点的に行っていく予定です。
「ドライアイ」については、既に世界で上市されている6製品の内で、3製品が参天製薬の製品です。
今後は、疾患の原因に応じた開発・販売、更なる拡大を目指していこうと考えています。
「緑内障」についても、既にグローバルリーダーとしての地位を確立しています。
現在は主に眼圧下降剤が選択肢になっていますが、参天としては外科手術と視神経保護という新たなアプローチで患者ニーズをさらに満たしていくことが出来ると考えています。
新規事業
近視、網膜色素変性症、老視、眼瞼下垂については今後の狙っていく新規領域になります。
「近視」については、STN1013400 (選択的ムスカリンM2受容体拮抗薬) に、低濃度のアトロピンを組み合わせて、近視への包括的なアプローチを展開していきたいと考えています。
さらに、近視に対する啓発活動にも取り組んでいく予定です。
「老視」については、眼の水晶体の弾力性を戻すことで、老視を抑制・治療するという参天独自の戦略をとっています。
既に候補化合物を特定済みなので、PoC試験に進めたいと考えています。
外部連携
参天製薬では、年間100 件以上の新技術やモダリティの評価を実施しています。
具体的な連携先としては以下があります。
- スタートアップ:PeptiDream、jCyte
- 製薬会社・化学企業:ベーリンガーインゲルハイム、エーザイ
- 研究機関:神戸センター、シンガポール眼科研究所、ハーバード大、マサチューセッツ感覚器病院, etc
これらの提携先との協業を通じて、眼領域にイノベーションを起こしていきたいと考えています。
開発品の臨床結果と今後の価値最大化戦略
ここからは、現在の開発品の臨床データについて説明していこうと思います。
STN1012700 (近視)(アトロピン硫酸塩)
12ヶ月間、1滴/日で点眼を実施するPh2試験が実施されました。以下に結果をまとめます。
- 等価球面度数の変化を抑制 (いわゆる「度数」のこと)
- 眼軸長の延長を抑制 (近視の症状)
- 瞳孔径にはほとんど影響は無し (副作用で眩しくなったりはしない)
Upneeq点眼 (眼瞼下垂)
眼瞼下垂とは、まぶたが落ちてきて視界を遮ってしまう疾患です。
主に高齢者での疾患ですが、若年でも起こることがあります。
それに対する治療薬として「Upneeq点眼」をPh3試験 (US) として投与しており、結果を以下にまとめます。
- 瞳孔中心からのまぶたの下がりを有意に改善
- 上方視野の欠損を有意に改善
これによって、Ph3の主要評価項目を達成しました。
今後は、アジアでの開発に向けて準備を進めていく予定です。
細胞療法 (網膜色素変性症)
網膜色素変性症は、若年罹患者が成人に達する頃には失明する可能性が非常に高いアンメットニーズの高い疾患です。
この疾患に対して細胞療法でjCyte社と協力し、Ph2b試験を実施しました。結果を以下にまとめます。
- 最高矯正視力を高容量投与群で改善
- 患者を層別化するとさらに有効性が増した
機関投資家の質問
Q:近視に対してどういった戦略でアプローチしていくのか?
A:アトロピンをはじめとして、STN1013400やより重度の近視患者に対する新規アプローチといった形で包括的に狙っていきたい。
Q:老眼の治療薬について、候補品が見つかっているという話だが、具体的にはどういう開発計画か?
A:老視に関しましては 臨床でのPOC試験 を間もなく開始する予定。期待していて欲しい。
Q:近視治療薬の STN1012700 (アトロピン硫酸塩) に競合優位性はあるのか
A:実際、海外でも参天より早く治験に入っている会社がある。そこで、単に治療薬を提供するだけではなく、どういう治療方法が適切であるかということを含めて提供することで差別化したい。
また、供給面でも優位性が高いのは参天だと考えている。
Q:眼瞼下垂はOTC みたいな形で商業化していくのがメインシナリオなのか?
A:既にFDAにはRx薬として承認を受けているので、Rx 薬としてしっかりと販売を続けて、複数年のデータ蓄積を経た上で OTC 化をしていきたいと考えている。
Q:M2選択拮抗薬 が、散瞳リスクが低いのはよく分かったのですが、M2 だけに選択性を高くすることによって、M1 だったり M3 などに比べて有効性の差はないのか?
A:副作用を気にかける必要性が下がるので、投与量を上げられるという点では臨床での高い効果が期待出来る。
Q:アトロピンについて、投与期間終了後の増悪や、症状が戻ってきてしまう、さらに以前よりも視力が落ちるケースが報告されているがその点はどう考えているのか?
A:実は治療、治験の中ではなかなかクリアになっていない。眼球の全体の成長が終了するまで治療を続けていただいて、リバウンドのないような状況をつくるのが理想。今後の参天の試験の中でデータは取っていき、投与量や期間も最適化していきたい。
Q:アトロピン自体はかなり古い薬だが特許はどうなっているのか?
A:支援とか情報提供というところで、参天製薬の製品を使っていただけるような環境をつくり込むことが大事だと考えている。
個人的見解とコメント
他社と比べて、パッと見て分かりにくいスライドが多い気がしました。。。
私が眼領域に詳しくないからですかね?
海外のR&D関連の資料と似た印象を持ちました。
眼領域自体はニーズはあると思うが、パイプラインは少ない
説明会のスライドだと開発品が沢山あるように見えますけど、開発国を分けて表示しているだけで、実際の化合物自体は少ないと思います。
しかし、新規の眼疾患領域に踏み込むことで市場を拡大しようとしている意思を感じました。
特に、細胞療法とかは眼疾患に最適なモダリティだと思いました。
ノバルティスが世界には「細胞療法×眼」で君臨しているのでそこにどうやって切り込むかですね!
自社発の開発品は多くない
全体的に自社品は少ないですね。
開発パイプライン資料を見ると分かりますが、海外製薬からの導入等が多い印象です。
奈良の研究所も結構大きく、眼疾患に特化している割にはやはり新規化合物は難しいのでしょうか?
それとも中外製薬とかを見過ぎて感覚がおかしくなってますかね?
あと、細かいですけど、治験データとともに次のアクションをもう少し言ってくれると助かります。。。
市場を完全に掌握することが出来たら最強なのか?
発表者の話を聞いていると、「対象疾患を包括的にカバーをすることで独自の解決策を提案する」という戦略を強く感じました。
おそらく眼疾患市場を診断から治療まで一気通貫で掌握することで、眼領域のプラットフォーマーになろうとしているのでしょうね!
その戦略自体はハマれば素晴らしい収益性の会社になる可能性はありますね!
最後に
今回は参天製薬の製品創製説明会について解説しました。
世界的なスペシャリティーファーマまではあと少し足りない印象ですが、戦略自体は上手くいけば素晴らしいと思いました。
説明会は少し分かりにくいから、もう少しサッと理解しやすいスライドにしてくれると助かります。。。
馴染みのない眼領域を紹介するの疲れました笑
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