こんにちは、ティーダです。
先日2022年10月12日に塩野義製薬のR&D説明会が開催されましたね。
当初は9/22に開催予定だった本説明会ですが、おそらくコロナ治療薬ゾコーバの治験結果を踏まえて、後ろ倒しになったのでしょう。
そこで、今回は塩野義製薬の2022年度最新のR&D事情をまとめて、解説してきます!
2028年にドルテグラビルのパテントクリフが想定される塩野義が、どのようにクリフを乗り越えるつもりなのかに注目して見ていきましょう!
資料がAppendix入れて122ページに及ぶので、まとめるの大変でした笑
さらに、前回の2021年のR&D説明会を解説している記事を読むことで進捗を比較できます!
是非こちらも↓
COVID-19関連事業
まずは、約2年間塩野義製薬の大半の研究開発人員をつぎ込んだであろうコロナ関連製品についてです。
治療薬 (ゾコーバ)
ゾコーバについては、緊急承認申請でYoutubeで審議の様子がLive配信され、参加者からボコボコにされていたのが記憶に新しいですね!
議事録はここにあります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26858.html
Ph3で主要評価項目達成!
Ph2bまで使用していた評価項目を一部変更して、よりオミクロン株に特徴的な臨床症状を設定しています。
- 主要評価項目:オミクロン株に特徴的な5症状の消失までの時間
- 副次評価項目:投与後のウイルスRNA量の変化量
- 主解析対象集団:COVID-19発症から72時間未満の被験者
上記の評価項目は既に当局と協議を重ねた上で設定された項目になります。
その結果、以下のような結果になりました。
- 投与群で、COVID-19の5症状が消失するまでの時間をプラセボ群と比較して有意に短縮 (主要評価項目達成)
- プラセボ群に対して、24.3hrの短縮 (P=0.0407)
- 投与4日目 (3回投与後) 時点のウイルス量 (ベースライン調整値) をプラセボ群と比較して、30分の1に低下
- 安全性も大きな懸念なし
この結果を受けて、ゾコーバは承認される可能性が高いことが現在の共通認識です!
Ph2bから上手く評価項目を再設定してPh3を成功させましたね!
今後の試験計画
今回のPh3試験での成功を皮切りに複数の試験を国内外で実施する予定です。
特に注目はSCORPIO-HR試験で、こちらの試験が成功すると海外メガファーマとの協業も現実的になってくるのではないでしょうか。
また、同居家族の伝播予防試験 (SCORPIO-PEP試験) もゾフルーザを開発した経験から上手く進むと思われますね!
ワクチン (S-268019)
臨床試験結果
コロナワクチンに関しては現在9個の臨床試験が走っています。
その内5個は既に結果が判明している試験になります。
そこで、簡単に主要な試験の結果概略を以下に示します。
- Ph2/3試験:コミナティ接種患者でのブースター投与後の中和抗体価
コミナティ接種患者へのブースター投与において、S-268019はコミナティと同程度の中和抗体価が持続的に得られることを確認 - Ph1/2試験:初回免疫と追加免疫後の中和抗体価
S-268019の初回免疫・追加免疫により、持続性のある高い中和抗体価が得られることを確認 - Ph3試験:アストラゼネカワクチンとの中和抗体価比較試験
バキスゼブリア群と比べて、S-268019群の中和抗体価が有意に高いことを確認
今後の予定
上記の臨床試験の結果を受けて、2022年内中での申請を予定しています。
4月決算では6-7月に申請予定、8月決算では上期中の申請を明言していました。
さらに、本説明会では年内という後ろ倒しです。
本当に2022年内で申請出来るのか!?なにか重大な問題があるのか?
ワクチン事業の取り組み
塩野義は2017年からワクチンビジネスへの参入を決定し、UMNファーマ買収とコロナワクチンを機にワクチンビジネスに大きく投資しています。
さらに、社内でワクチン事業部を立ち上げ本格的に参入を目指しています。
今回は、塩野義のワクチン事業への取り組みについて紹介されていました。
獲得した研究基盤と目指す姿
塩野義が目指す姿は以下の形です。
今回は具体的に以下の2つの技術について紹介されていました。
アジュバント
塩野義は以前からS-540956というアジュバントを創製した経験があります。
しかし、塩野義にとって初めてヒトに投与したアジュバントが今回のA-910823です。
また、S-268019では、最初のPh1の結果において抗体価の十分な上昇が認められなかったため、途中でアジュバントを変更しています。
今後はコロナワクチンから得られた知見を生かして最適なアジュバントを選択可能な体制を構築していく計画です。
抗原創製基盤の構築
塩野義はバキュロウイルスを用いた組み換えタンパクワクチンを中心にビジネスを展開しています。
そのため、各種病原体に対して最適な抗原をデザインする研究・技術力が大事になってきます。
コロナではSタンパク質を狙うワクチンが多いですが、他ウイルスでは標的になるタンパク質が複数存在し、最適な抗原をデザインする力が重要になってきます。
そこで、塩野義は独自の抗原SARサイクルを構築する計画です。
SARとは、構造活性相関といって、低分子化合物の活性を向上させるための有機的なデザインの改変を言います。
つまり、塩野義のお家芸の低分子化合物のように、ワクチン抗原についても有望なデザインを最適化するプラットフォームを構築しようと考えています。
中外製薬が抗体の活性を向上させるために、配列を最適化するサイクルを回しているのと同じようなイメージですね!
社外連携
また、社外連携についても非常に積極的に力を入れてます。
上記の目指す姿で挙げられていた技術については、それぞれで外部提携を通じて獲得しようと取り組んでいますね。
- ヒト免疫機構の解明
大阪大学、国立感染研、KOTAI社 - 粘膜免疫プラットフォームの構築
千葉大学、HanaVax社、国立感染研 - ユニバーサル抗原デザイン
国立感染研、KOTAI社 - アジュバント研究
東京大学
開発品の進捗
ここからはコロナ関連以外の開発品について主要なものだけを簡単に紹介していきます。
レダセムチド (S-005151)
本剤は、HMGB1ペプチドで、ステムリム社からの導入品になります。
再生誘導医薬として様々な疾患に対して適応出来ると考えられており、複数の治験が進んでいます。
本説明会では、急性期脳梗塞でのPh2試験 (N数は各群60程度) の結果が公開されていました。
その結果、プラセボ群に対して、レダセムチド投与群において、介助不要になった患者の割合が増加するというデータが得られました。(プラセボ群:18%、レダセムチド群:34%)
上記の結果を受けて、グローバルPh3試験で、患者数1356例の大規模試験を実施する計画です。
この結果を受けて、ステムリム社の株価は暴落していました笑
もう少し良い結果を期待していたのか??
olorofim(F901318)
本剤は、真菌の生育に必須なピリミジン合成経路の阻害により殺真菌活性を示す新規作用機序の抗真菌薬になります。
今年、F2G社からアジア地域での権利をライセンスインしました。
既にグローバルPh2b試験で中間データが出ており、その結果を受けてPh3試験が開始しています。
resiniferatoxin
本剤は、感覚神経のTRPV1に対して脱感作を起こす化合物で、脱感作によって麻痺させることで痛みを取ります。
今年、Grünenthal社から日本での販売権をライセンスインしました。
これまでの臨床試験では、プラセボ群と比べ有意な鎮痛効果が1回の投与で約半年間持続することが確認されています。
現在は、グローバルPh3試験が実施されています。
2025年に国内での上市を予定しているそうです。
国内市場は700億円以上らしく、2025年に上市出来ればクリフを乗り越える一助になりそうですね!
S-309309
本剤は、腸管のMGAT2を阻害する薬剤です。同ターゲットを狙った抗肥満薬は世界初だそうです。
MGAT2を阻害することで、食欲調整因子のバランスの変調を起こし、食欲抑制を起こすメカニズムです。
また、経口投与が可能で、マウスモデルではGLP-1注射剤以上の薬効が認められています。
現在Ph1試験で、順調にPKプロファイル等を確認出来ているそうです。
S-309309は結構機関投資家からの質問が多かったです。
GLP-1製剤関連が最近ホットだからですかね?
機関投資家の質問
ソコーバのグローバルPh3試験 (SCORPIO-HR) の成功率はどれくらい?
SCORPIO-HR 試験のデザインは日本のものと多少は異なるが、基本的には同様の症状改善効果が認められると考えている。
治験デザインについてはまだFDAと議論中
オミクロン薬になるのかコロナ治療薬になるのか?
たまたまオミクロンが流行っていただけで、COVID-19 の延長のウイルスを全てカバーしない理由が全く見当たらないので、大丈夫と考えている。
商業的なポテンシャルについてはどう考えているのか?
薬剤相互作用は、パキロビッドと同程度からスタートと考えている。妊婦への投与については、ラゲブリオと同じようなレベルと考えている。
しかし、スタンダートリスク患者に出せるため、薬剤相互作用は基本的に気にならず、非常にスムーズに出せるので、ポテンシャルは非常に大きいと考えている。
価格は現在検討中。
S-309309で消化器症状とかは出ないのか?
非臨床モデルでは非常に高い忍容性を確認しており、Ph1試験でも懸念は今のところない。
S-309309はGLP-1を持つ他社ともやるのか?
プライマリーケア領域のため、商業的なパートナーが必要だと考えている。
しかし、導出時のことを考えると、出来る限り最後の方まで臨床開発は行いたい。
ロングCOVIDについて影響はあるのか?
現在のPh2b/3試験で患者のフォローアップはしているので、それらのデータで探索的に検討していきたい。
そもそものロングCOVIDの定義づけから、アメリカ政府のサイエンティスト、レギュレーター、疫学者らと話し合っている。
S-309309は併用戦略で開発を進める?
Ph2については単剤で進める予定。
しかし、将来的にはGLP-1製剤との併用が重要だと考えている。
コロナ関連は進んだが、他の開発品については進捗が見えない
2023年から2025年にどういうものを上市出来るかについては、非常に大きな危機感を持っている。
実際に、コロナ以外を進捗させる危機感は非常にあるため、7月から組織体制を変えた。
個人的な見解
毎年これだけの資料を出すのは凄いけど。。
まず、これだけのコロナ関連を含めたR&D関連のデータや新規の開発候補品を毎年出してくるのは素晴らしいと思います。
他社でここまで進捗や動向を詳しく公開してくれる企業は少ないですよね。
しかし、機関投資家にも言われてましたが、コロナ以外の開発品の進捗が少ないですね。
導入品は2つありましたけど笑
去年の内容を詳細に話しているだけのパートとかもあって、少しかさ増し感が見られました。
コロナ関連が片付き始めて、ここから来年のR&D説明会にかけてどのように研究開発が進むのかが楽しみですね!
コロナ関連がどれだけの売上になるのか?
4月に発表された今期の予算では、コロナ関連製品で1100億円の売上を立てる計画でした。
治療薬はおそらく承認される可能性があり、政府による100万人分の買い上げが起こるのなら、いくらになるのでしょうか?
また、すでにノババックスワクチンがある中で、塩野義ワクチンの追加接種分がどれだけ市場に流通するのでしょうか?
まだまだ先が見通せない不安な状態だと思います。
まずはゾコーバの売上高に注目ですね!
最後に
今回は塩野義製薬の2022年度のR&D説明会について徹底解説してきました。
コロナが注目の的ですが、他の開発品についても進捗があるものや少し止まっているものが見えてきたと思います。
個人的には、内資製薬がコロナ治療薬とワクチンを同時に進めて、ある程度の形まで持って行ったのはかなり凄いと思っています。
これ出来てるの世界でファイザーだけですからね!
その上で、機関投資家からの他の開発品が進んでいない指摘を受けるのはなかなか厳しいように感じました笑
非常にホットで色々な視点から世間の注目を集めている塩野義製薬について今後も注視していきましょう!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
コメント