【新型コロナ注力企業】塩野義製薬の2021年R&D説明会を徹底解説

塩野義製薬のR&D説明会 製薬企業分析

2021年9月29日に塩野義製薬のR&D説明会が実施されました!少し前の情報にはなりますが、その説明会で紹介されていた内容について今回は解説しようと思います!

現時点 (2021年12月下旬) でアップデートされているデータもあるので、それらの結果も追加情報として記事に盛り込んでいきますので、既に一度R&D説明会を見た方も是非チェックしてください!

本R&D説明会では、塩野義が全力を注いでいる (研究所の80%リソースを割いていたそうです) コロナ治療薬とコロナワクチンの進捗について注力して紹介されていました

この記事を通じて、現時点での塩野義製薬の将来性や今後のパイプライン等についても理解が進むと思います!

中期経営計画についても以下の記事でまとめています!こちらも是非!

 



COVID-19関連事業の進捗

2021年12月現時点では、塩野義からはコロナ治療薬もワクチンも未だ上市はされていません。
いくつかの学会では、「治療薬の非臨床結果」「ワクチンの初期臨床結果」は発表されています。

以下では「コロナ治療薬の詳細」「ワクチンの開発経緯」「新規ペプチド治療薬候補」について紹介しています。

コロナ治療薬 (S-217622)

全体概観

塩野義は現時点でも治療薬に関しては世界トップクラスで開発を進めています。
(ワクチンは後手後手ですが、、、)

(現状で承認されている治療薬はファイザーの治療薬のみで、メルクやロシュのものは薬効が低く成功とは言いがたい現状です。)

開発が早い理由として以下の要因が3つ挙げられていました。

  • COVID-19創薬に集中する大胆なリソースシフトとスピードを意識した意思決定
  • 「ウイルス研究」および「低分子化合物デザイン」のノウハウを活かしたシオノギ独自の「創薬プラットフォーム」
  • 北海道大学など外部パートナーとの連携による異なる強みの融合

実際、治療薬については非臨床の後期化合物を一度断念しているにも関わらず、素早く次の新規化合物を臨床にあげているスピード感や合成技術については世界トップクラスであると思われます。
(ガイアの夜明けで失敗した時の話をやっていました)

薬効メカニズムと非臨床データ

塩野義の候補化合物はウイルスの3CLプロテアーゼをターゲットにしています。
現在90%近くの死亡抑制効果があることが分かっているファイザーの化合物と同じターゲットです

3CLプロテアーゼ:
ウイルスが細胞内に侵入した後の増殖サイクルに必要なタンパク質。コロナウイルス属で高く保存されており、ヒトのプロテアーゼとも相同性が低いため安全性懸念が少ないと考えられる。

In vitroの試験では、野生型 (武漢株) からδ株まで幅広い株に対して活性を示すことが示されています。
現時点で発生が認められたオミクロン株に対しても活性があることがプレスリリースされています

In vivoの試験では、投与量依存的なウイルスの減少と生存率の改善が顕著に見えています。

現時点 (12月下旬) でPh2/3を海外と国内で実施している現状です。
国内は患者数が少ないため、この説明会で予定されていた年内でのPMDA申請準備は困難であることが予想されます。

コロナワクチン (S-268019)

全体概観

ワクチンについても国内では比較的早く開発を始めていました。

しかしながら、2020年12月に実施した国内Ph1/2において、実績のある旧アジュバントを選択したため、十分な中和抗体を得られず、いったん中止しています。

その後、新たなアジュバントを用いた新製剤に変更し、2021年8月からPh1/2試験を再度開始しました。

非臨床結果と臨床結果 (後付け)

新製剤の非臨床試験の結果としては、サルに対するワクチン投与結果が示されています。

その結果、投与サルの中和抗体価がコロナ回復患者血清と同程度以上のことを確認しています。

さらに、現在ではPh1/2試験の結果もプレスリリースがあり、

  • S-268019新製剤の2回接種後における忍容性と安全性が確認された。
  • 2回接種2週後から、回復者血清と同程度の中和抗体価の上昇が確認された。
  • Th1反応およびTh2反応はともに促進されたが、Th1/Th2バランスはTh2優位にはならなかった

という結果が得られています。

現在は「国内Ph2/3試験」と「国内追加免疫試験」を実施しています。

コロナ治療薬としての開発候補ペプチド

さらに塩野義はPDPS創薬力を駆使した新たなコロナ治療薬を紹介しています。

こちらの化合物では、非臨床の結果から、

  • 各変異株 (δまで) に対して強い抗ウイルス活性を示した
  • 用量依存的なウイルス減少が認められた
  • 老齢マウスを用いた実験によっても症状を改善した

こういった結果から、治療薬だけでも複数の候補品を所有していることが見て取れます。

その他のコロナ関連の取り組み

上記以外のコロナ関連の取り組みとして以下が簡単に紹介されていました。

経鼻ワクチン、ユニバーサルワクチン
感染予防能を持ち、投与時痛くない経鼻ワクチン、変異株出現に対応したユニバーサルコロナワクチンにも力を入れようとしています。

重症化予測バイオマーカーキット
ケモカインであるTRACを測定することで、入院時に重症化する可能性が高い患者を見極められる検査キットです。

下水検査
施設や地域の下水に含まれるコロナウイルスを検出することで、該当施設内にコロナ陽性者がいるかを判別可能です。

現在はδ株、オミクロン株など変異株に対しても対応しています。



その他の研究開発の進捗

以下ではコロナ以外での研究・開発の進捗について個々に簡単に紹介いたします。

HIV感染症 (S-648414, S-365598)

塩野義はHIV薬 (ドルテグラビル) のロイヤリティーで主に利益を得ています。

現在、塩野義が注力しているHIV薬は長時間作用型治療薬です。

HIV薬は通常1日1回毎日飲み続けなければなりません。1日でも薬を飲み忘れることで耐性ウイルスが出現する可能性があり、その薬が使用できなくなります。

そこで、世界のHIV薬のトレンドは注射による長期作用型の薬剤にシフトしています。
(例えば、一回の注射で3ヶ月維持する製剤)

塩野義も現在はViiV社に自社化合物であるS-365598を導出し、開発を急いでいる現状です。

難治性慢性咳嗽 (S-600918)

こちらはP2X3受容体アンタゴニストであるSivopixantです。
現在、Ph2b用量設定試験を完了しています。

その結果、主要評価項目である「24時間における1時間あたりの咳回数」はプラセボとの有意性が認められず、達成できませんでした。しかし、高投与量群では副次評価項目を複数達成していました。

次回のPh3試験ではこの結果が受けて、最適投与量を設定し、治験届を2021年度内に提出する予定です。

表皮水疱症、急性脳梗塞、etc (S-005151)

この薬はHMGB1類縁体の合成ペプチドで、ステムリム社から導入している開発品です。(名称:レダムセチド)

この開発品は現在5種類の疾患に対して治験が進められています。

そのうちで、今回の説明会で紹介されていた栄養障害型表皮水疱症と、最近治験結果が公開された急性期脳梗塞 (Ph2) について簡単に説明します。

栄養障害型表皮水疱症については医師主導治験が実施完了しており、9例中で7例で有効性が確認されました。
資料内では、レダムセチド投与前と投与後の写真が掲載されており、目に見えて潰瘍部分が消失している様子が見て取れます。

現在は追加症例を積み上げるために新たな試験を実施する予定です。

急性脳梗塞については、2021年12月にPh2試験の結果が公開されており、主要項目である「社会復帰に向けた予後の程度を示す投与90日後のmodified Rankin Scale* (mRS)」を達成しています。
また、有害事象の発生もプラセボと同程度で安全性も問題は認められませんでした。

現在はグローバルでのPh3試験を準備している段階です。

うつ病 (S-812217[zuranolone])

こちらの開発品はSage社からの導入品で、既にBiogen社との治験でPh3で大うつ病を対象にPoCを達成しているものです。

現在国内では塩野義が開発を進めており、Ph2での主要評価項目を達成しています。

今後は国内Ph3試験を経て、2024年頃の承認を目指している段階です。

固形ガン (S-531011)

こちらは腫瘍浸潤Tregを除去することをメカニズムとした自社発の抗体医薬品です。

現在Ph1b/2試験を計画しています。

小児ADHD (SDT-001)

こちらはAkili社からの導入品で、ゲームを用いた小児ADHD治療アプリです。

こちらはPh2では、使用群においてADHD改善傾向は認められたものの、主要評価項目は達成できず、Ph3試験についてPMDAを議論している段階です。

投資家からの質問

Q:ファイザーの化合物と狙っているタンパク質は同じだが、構造的にも似ているのか?
A:構造は根本的に異なっている。ファイザーは比較的古典的なもので、塩野義は全く新規の構造をしている。
(既にファイザーの効果が証明されている点からも、構造の違いが吉と出るか凶と出るか?)

Q:非臨床の結果から見ると薬効はファイザーやメルクの経口薬と同程度なのか?
A:ほぼ同等の効果が得られるのではないかと考えております。
(メルクはヒトでは効果が低く、ファイザーはヒトでの効果が高い。やはり非臨床の結果からは優劣の判断は難しい。。。)

Q:塩野義の薬による耐性ウイルスは出現する可能性があるのか?
A:耐性ウイルスは抗ウイルス薬の宿命で、出現する可能性は非常に高い。臨床での使用などは注意して進めないといけない。
(ゾフルーザのこともあって耐性ウイルスについては非常に敏感な塩野義ですね!)

Q:治療薬の治験での安全性は現時点で問題ないのか?
A:投与が中止になった患者は現時点ではいません。もしあったらすぐに開発をやめるのが塩野義の絶対的な方針です。

Q:発症予防試験を実施する必要があるのか?
A:国内での申請では必要ない可能性はあるが、WHO等からの承認を得る場合は基本的に必須と考えています。現在PMDAとも議論をしている段階です。

相変わらず野村證券の甲谷さんが鋭い質問してました笑

個人的な意見と感想

以下には私がこの説明会を見た上での個人的な見解を書きたいと思います。

全体としては、開発品等について非常に分かりやすく詳しく載せてくれていたので、非常に読みやすい資料でした。(他社と比べても一番じゃないかな?)

このコロナが2025年頃に訪れるドルテグラビルクリフにどれだけ貢献できるかが非常に注目の時点だと思います。

コロナ関連でのプレスリリースはするが、データが全然出てこない

最近Yahoo!ニュース等で塩野義のコロナ関連の取り組みについてよく取り上げられています。

しかし、その内容にはデータはほとんどなく、「〜株への有効性確認」、「〜の有効性を示した」等の広告でしかないニュースが多いです。

海外他社と比べてもデータ開示する傾向がないことは、ニュースを出すことで株価を引き上げることに注力しているだけのようにも感じられます。

取り組み自体は肯定できますが、もっとサイエンスに根付いたプレスをしてもらえると信頼度は増すんじゃないでしょうか?

疾患を絞り切れていない印象

今回のブログでも取り上げている開発品だけでも言えることですが、非常に開発疾患が幅広いです。
(感染症からガン、神経系、再生医療、肥満、etc…)

これでは内資企業の少ない開発費が分散してしまっていると考えられます。

第一三共や中外のように何か特定の領域に特化して開発を進めていく必要があるのではと感じました。

確かに最近は研究レベルでは「感染症・中枢系・その他」で領域を絞っているそうなので、今後はもっと絞られていくかもしれません。

ペプチドでコロナ治療薬を素早く作れるのはさすが「低分子の塩野義」

ペプチドリームのPDPS技術を用いて新規のコロナ治療薬を創っています。

これはやはり国内でもトップクラスの低分子研究力を持つ塩野義ならではの素早い技術かと思います。

実際中外でもペプチド創薬は実施していますが、この短期間でヒットペプチドを挙げてくることは至難の業かと思います。

このことからも塩野義内でもペプチド創薬に関するプラットフォームが既に構築されていることが見て取れます。

最後に

現状ではドルテグラビルクリフを乗り越えられるパイプラインは十分ではないように見えます。

コロナ関連の取り組みや最近の中国企業とのJV等の中で何か新たなブレイクスルーが生まれることがクリフを乗り越える道なのかと思いました。

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