【世界トップの技術力】中外製薬 2021年R&D説明会を徹底解説

中外製薬のR&D説明会 製薬企業分析

先日2021年12月13日に、中外製薬のR&D説明会が実施されました。

今回はその内容と今後の動向予測について、個人的な見解も踏まえて解説していこうと思います!

中期経営計画についても以下の記事でまとめています!

 



R&D説明会 概要

そもそも中外製薬のR&D説明会って何を説明する会なの?

中外製薬のR&D説明会は例年年末に実施される技術面に特化した説明会で、デジタル戦略説明会 (2020年) 、抗体技術説明会 (2019年)といった形で実施されています。

中外製薬は特に技術力で国内トップ (世界でもトップレベル) で、自社の技術力に強い誇りを持っているので、年に一度のこの説明会は中外製薬の技術を投資家にアピールする絶好の場と考えています。

中外製薬の研究方針

全体の研究方針

中外製薬の今後の研究活動においては以下の4つのキーワードで進めていく予定です。

  • 既存技術基盤の拡張 (主に抗体技術) と新規基盤技術の構築 (中分子技術)
  • 独自の創薬アイデアの具体化 (アカデミアとも連携して)
  • グローバルでの先進企業との連携 (技術と創薬標的どちらも)
  • デジタルの活用

上記4つのキーワードを組み合わせることで、


「First in Class」
既存技術では太刀打ち出来ないターゲットに対して、新しい技術をつくり出し、適用し、創薬する
「Best in Class」
既存技術では達成できない薬効を独自技術で実現する

の薬を創っていくというのが、今後の研究方針の確たる考え方です。

技術開発の方向性

既存の「低分子医薬」、「抗体医薬」に加えて、自社創薬技術として、中分子創薬」をコア技術に入れていきたいと考えています。

さらに、中外の強みである「タンパク質エンジニアリング技術」を活用することで、特に外部提携を通じて、遺伝子治療や細胞療法などの領域とも融合して、モダリティーを充実させていきます。

創薬標的の探索

疾患理解・標的探索については、特にアカデミアとの共同研究を通じて、「臨床検体へのアクセス」、「最新の研究知見」を用いて取り組んできます

特に以下の3施設が重要拠点になります。

  • 大阪大学 IFReC
  • 東京大学医学部 アレルギーリウマチ内科
  • 国立がん研究センター
    上記3つの研究施設には中外製薬の研究員が駐在するオンサイトラボを所有しています。

これ以外にも「自前オンリー主義の創薬からの脱却」「デジタルを活用した創薬の効率化」についても触れられていました。

中分子創薬:抗体でも低分子でも困難な創薬への挑戦

以下では、今後の第3の柱となっていく中分子創薬について詳細に述べられています。

なぜ中分子創薬 (環状ペプチド) なのか?

低分子創薬:
細胞内にアクセス可能だが、ターゲットのタンパク質に深い穴 (ポケット) が必須である。(ポケットがあるタンパク質は約20%)

抗体創薬:
ターゲットに対して特異性高くアクセスが可能だが、細胞表面のタンパク質に対してしかアクセスできない。(細胞外のタンパク質は全体の約20%)

上記の低分子と抗体で実現できない創薬を中分子創薬によって可能に出来ると考えています。
そして、中外製薬は中分子創薬の中でも「環状ペプチド」を用いた創薬に着目して研究を進めています。

環状ペプチドのメリットは以下の通りです。

  1. 従来難しかった創薬標的タンパク質には、中分子 (分子量1500程度) が有効と分かってきた
  2. 環状ペプチドなら、化学合成手法を確立してしまえば、並列で迅速に合成して、評価が可能
  3. 10の12乗という数で多様性の高い化合物ライブラリーが構築可能(従来の低分子では10の6乗程度)

中外製薬独自のDrug-like hitの取得方法

今回は中外製薬独自の中分子創薬プラットフォームの構築方法について簡単に説明します。具体的には以下の3ステップです。

①中分子の薬っぽさを探索
まず研究のとっかかりとして、膨大な数・種類の環状ペプチドを合成・評価して、「中分子の薬っぽさ」を中外製薬独自の基準で半定量的に定義しました。 (分子量、油っぽさ、代謝安定性、溶解性 etc…)

②膨大な中分子ライブラリー構築
抗体創薬でも使用されているmRNA Display Libraryを用いて、上記で定義した中外独自の「中分子の薬っぽさ」の条件を満たす非天然型のペプチドを大量に合成・ライブラリー化しました。

③ヒット化合物の取得・最適化
標的タンパク質に対するヒット化合物を膨大なライブラリーから選定して、化学構造を最適化して、リード化合物へと洗練していきます。

加えて、クライオ電子顕微鏡等の最先端技術を用いた標的タンパク質とヒット化合物の立体構造の解明も含めて、より詳細な解析も利用して進めていきます。
(クライオ電顕を単独で所有する製薬会社は国内では中外だけ!)

中分子技術を用いた最初の臨床試験開始新規環状ペプチド、LUNA18

現在臨床試験に入った中分子RAS阻害剤 LUNA18について簡単に紹介します。
RASとGEFのタンパク質間の相互作用を阻害することで、ガン細胞の増殖を阻害する、経口投与可能な環状ペプチドを創り上げました。

LUNA18以外にも10種類の候補化合物がリード化合物の最適化段階にあり、さらに早期のフェーズにも複数の化合物が揃っています。

抗体エンジニアリング技術 アップデート

次に、中外製薬のお家芸といっても過言でない抗体エンジニアリング技術について最新アップデートを4つ紹介します。

Dual-Ig 次世代T細胞バイスペシフィック抗体技術

従来の「ガン抗原」と「CD3」に対するバイスペシフィック抗体 (TRAB) では、ガン細胞があるときだけT細胞シグナルを活性化して、T細胞がガン細胞を殺すというメカニズムで薬効を示す画期的な方法でした。

しかしながら、従来のバイスペシフィック抗体では、T細胞が入っていないガン (いわゆるCold tumor) に対しては効果が低いことが課題でした。

そこで、中外の独自技術「Dual-Ig」では、CD3だけでなくCD137 (共刺激分子) に対しても結合することで、より強くT細胞を持続的に活性化し、T細胞浸潤が少ない腫瘍でもガン細胞を殺せるようにすることを可能にしました(量を質で補うイメージ)

さらに、LINC-Igという以下で説明する別の抗体エンジニアリング技術と組み合わせることで、CD3/137への結合を高めて、さらに薬効を増強させることが可能になっています。

現在、GLPグレードでの毒性試験を実施しており、近いうちに臨床入りを期待しています。

LINC-Ig アゴニスト活性増強技術

上記のDual-Ig技術と組み合わせて使用されている技術で、アゴニスト抗体の活性を増強させる技術になります。

具体的には、抗体を改変することで、刺激する受容体 (抗体のターゲット) を効果的に二量体化させることで、より強く細胞内に刺激を入れることが可能になります。

PAC-Ig 病態部位・臓器特異的プロテアーゼ活性化抗体技術

病態や臓器特異的に発現しているプロテアーゼによって切断されることではじめて抗原に結合できる抗体を作製する技術になります。

これによって、ある特定の病態部位、あるいは特定の組織においてのみ働く抗体を作ることが出来ると考えています。

MALEXA (Machine Learning x Antibody) 機械学習による抗体デザイン

現在中外製薬では、COSMOという1週間で数千個の抗体をデザインして評価することが可能なプラットフォームを所有しています。

そのCOSMOで得られた膨大なデータを機械学習によって学習することで、1残基のアミノ酸変異による抗体ごとの変化を予測し、最適なリード抗体探索を可能にするシステムが「MALEXA」です。

実際に研究員が人力で作製するよりも、MALEXAによって提案された抗体の方が高活性で、産生量も高い抗体を得られるというデータも得られています。

総じて、各抗体技術を活用した多くの抗体プロジェクトの開発候補品が後期非臨床試験に入っており、今後臨床入りが期待されています

機関投資家の気になる点

Q:LUNA18は全てのRASを阻害するそうだが、全てのRASを阻害ことが本当によいのか?現在はG12C変異型RAS阻害剤が上市されていて、野生型RASは阻害しない方がよいという研究報告もある。
A:確かに現状ではRAS阻害について野生型と変異型のどちらを阻害する方がよいのかは分かっていない。今後の治験等で初めて世の中で分かっていくことになると思う。当然選択的なRAS阻害剤も考えていきたい。

Q:単一のバイスペシフィック抗体を2剤併用投与すればよいのではないか?
A:ガン抗原に対して2剤が競合してしまうこと、2剤併用の臨床開発が難しいという点が大きな理由。さらに、CD3とCD137のシグナルバランスが大事になるので、単剤では片方は効果があって、他方が効果がないという状況になり、その点でも開発が難しい。

Q:Dual-Igについて、特許性 (排他性) はどこにあるのか?
A:CD3とCD137を狙う点については特許性がある。しかし、Fabが2つの抗原に結合できる技術はジェネンテック社が既に特許を持っている。

Q:Dual-Ig抗体のオンターゲット毒性はどうなのか?
A:特定性の高いガン抗原を適切に選んだり、CD3/CD137のシグナルを微調整することでプログラムが可能。また、スイッチ抗体の技術を用いることで、より腫瘍特異性を出すことが可能と考えている。

Q:現在中分子で狙っている標的は低分子では狙えない標的なのか?
A:概ねがそうだが、既存のタンパクもある。その場合は、薬効の増強等を狙っている。

Q:LUNA18は、RAS変異体についても広域で薬効を示すのか?
A:全てではないが概ね変異型に対しても効果を発揮する。

Q:今後は抗体と中分子の2本柱になるのか?
A:低分子を入れて3本柱である。将来的には標的を特定してから、それにアクセスする最も最適なモダリティを自社で選択できるような体制にしていきたい。

野村證券の甲谷さんは一人だけ異常に専門的で鋭い質問をする (笑)
絶対この人研究出身で、しかも元一流研究者だろう。。。。

個人的な見解

ここからは私が個人的に感じた印象を独断と偏見で書いていきます。
まず、全体の感想としては、「さすが中外製薬!技術もコンセプトも全てが一級品!」という印象でした。

やはり創薬のターゲットは外部にも求める傾向

中外製薬も他社と同様で、IFReCや東大、国立がん研究センターを中心に外部との提携を非常に密に行っています。
少し異なるのは、オンサイトラボをそれぞれの研究施設に置くことで、より密に研究施設とコンタクト取っている点です。

そして、上がってきたターゲットは世界的にも卓越した創薬モダリティでどんな標的でも狙えるという考え得るかぎりで最強の戦略だと思います!(しかも開発は世界一のロシュにお願いできますし)

圧巻の抗体エンジニアリング技術

今回紹介された抗体エンジニアリング技術自体は全て、近年の複数のベンチャー企業が実施している技術です。しかし、それらを1社で複数構築して、さらに組み合わせることは中外製薬にしか出来ない独自戦略かと思いました。

データに裏打ちされた確かな技術力(まるでアカデミア)

まず、スライド内で引用されていた論文が、中外社員が筆頭著者のScience Translational Medicine (IF:18) であることに驚きました (笑)
それ以外にもデータを明確に示しながら新規技術について紹介していく資料はまるでアカデミアの研究発表を聞いているようで、非常に高いサイエンス力を感じました。(本当に投資家向けの説明会なの?)

また、ペプチドリームとの提携ではなく、自社で中分子プラットフォームをゼロから構築して、臨床にいち早く上げている点もすごいと感じました!
(ペプチドリームとの提携企業では臨床開発品は全然ないのに、、、)

専門的過ぎる説明会と機関投資家の質問 (笑)

アミノ酸、抗体、免疫関連の専門用語が当たり前のように出てきますし、機関投資家の質問もそれに対する返答もどこかの学会の質疑応答を聞いているかのような質疑でした笑
絶対に普通の人はRASの最新の研究報告とか知りません (笑)

最後に

正直、中外製薬については社外から見る限りではどこにもアラがありません。
新しく研究所を移転することからも財政的も余裕があることを感じられますし、ロシュとの強い提携や、コロナ関連での臨時収益など挙げればきりがないほどの完璧企業のように感じられました!

今後間違いなく日本の製薬企業でトップに躍り出る会社でしょう(現在の時価総額は国内1位ですが)

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