【研究所が大幅再編】アステラス製薬の2021年R&Dミーティングを徹底解説

アステラス製薬のR&Dミーティング 製薬企業分析

先日2021年12月7日に、アステラス製薬のR&Dミーティングが実施されました。

今回はその内容と今後の動向予測について、個人的な見解も踏まえて解説していこうと思います!

 



R&Dミーティング概要

そもそもR&Dミーティングって何を説明する会なの??

R&Dミーティングはアステラス製薬が毎年実施しているR&Dに特化した将来的なビジョンを投資家に示す説明会です。

過去には、例えば、がん免疫への取り組み (2019年)細胞医療への挑戦 (2018年) といった形で、アステラス製薬の研究ビジョンのコアとなる方針を説明する機会になっています。

アステラス製薬は既に、2021年5月26日に経営計画2021を発表しています。
経営計画2021で言及されているアステラス製薬の現状の最大課題である「XTANDIのパテントクリフ」への解決策を踏まえた上で、さらに先の2030年以降の成長に着目して今回のR&Dミーティングは説明されています。

そして、具体的には「研究組織体制の大きな改編」について言及されています。

実際の内容

研究組織改編の概略・コンセプト・狙い

従来の研究本部の組織構造は、階層型組織として、研究本部長の下に運営されていました。

そして、近年盛んに買収している海外バイオベンチャーについては、研究本部とは別の組織として各CEO管轄下にありました。
こちらは自立性は高いですが、アステラス製薬全体としての戦略が希薄で、研究本部や他の買収したバイオベンチャー間でのシナジーは生まれにくい状態でした。

そこで、今回の改編では、研究本部を解消して、全ての研究組織をCScO (Chief Scientific Officer) 傘下に集約し、アジャイル型の組織にして、それぞれを社内ベンチャーとして統一しました。
また、旧研究本部の約半分の研究員を社内ベンチャーに配属してそれぞれが自律的に活動できる環境を整えました。

※アジャイル型組織 (⇔ ピラミッド型組織、ウェータフォール型組織)
「アジャイル(Agile)」とは、「迅速」「俊敏」「素早い」などの意味を持つ英単語で、各自が自律的に行動し、オープンで俊敏性のある組織のこと

現場で迅速に意思決定を行うアジャイル型の組織にすることで新規モダリティーや新しいバイオロジーに積極的に取り組める環境を整えています。

従来の階層型・機能別組織の課題は大きく以下の2点でした。
① 意思決定に時間がかかり、さらに、決定を下す管理職に領域への専門性がないケースがあり、適切な判断が困難になる。
② 逐次処理の業務手順が迅速な判断・実行を必要とする新規モダリティーに対応していない。

アジャイル型では以下の点で従来の組織構造の課題を解決できますと考えています。
① ミッションごとに意思決定権限を与えられた専門家ユニットが迅速に意思決定し、自立的に活動できる。
② 社内バイオベンチャーを3段階に分けて、探索的研究⇒Primary Focus候補⇒Primary Focusの順番で人員数、プログラム数、権限が拡大していくシステムになっている。
③ 各社内バイオベンチャーのメンバーがオーナーシップを持つことで、製品創出に取り組むことを促す。
④ 基礎研究から生産に至るまでをアジャイル型組織として早期に密に連携することで、問題が発生しても迅速に対応可能である。

さらに以下の研究員以外の部署でも組織を改編することで、より迅速に判断出来る組織構造にしました。

  • 社外パートナーリングを探す組織も2つを統合して、迅速な判断を出来るようにした。(以前まではプロジェクトによって前期と後期で担当部署を分けていた)
  • マネージメントオフィス (CScO) でも、リソース配分を柔軟にして、各モダリティーのシナジーを生み、情報発信を盛んにして、統合作業をより迅速に行う。

社内バイオベンチャーの協業、発展の実際 ~実プログラムを例に~

以下では、具体的なプログラムを2つ上げて社内バイオベンチャーシステムの実際を説明しています。

先端技術の組み合わせによる価値の創造 ~CAR-NK~

例えば、現在アステラスが精力的に取り組んでいる細胞療法の分野では、多能性幹細胞の作製 (AIRM社技術) 、AAVによる遺伝子編集 (Universal Cells社) 、複数ガン抗原を標的化 (Xyphos社)、ガン抗原ターゲッティング (アステラス製薬) といった形で複数社の技術を使用して、先進的な細胞を作り出す必要があります。

そこで、アジャイル型の組織構造にすることで、これらのバイオベンチャーとアステラス製薬研究本部が有機的に繋がり、アステラス独自の細胞療法が実現できると考えています。

ベンチャーユニットの成長 ~PROTACs~

また、現状でも社内ベンチャーユニットが育ってきている例を挙げています。

今回紹介されていたものは、PROTACsの技術を用いて、腫瘍を直接阻害する社内ベンチャーユニットでした。

それ以外にも、6つの社内ベンチャーユニットが有望な候補として上がってきています。

社外連携だけでなく、こういった社内由来のベンチャーも今回の組織改革でより加速して進んでいくことを想定しています。

機関投資家が気にしているポイント

以下には機関投資家から出た質問について大事な質問だけを抜粋して紹介します。
彼らはその企業に投資価値があるか?という点でシビアに企業を研究しているプロフェッショナルなので、彼らの質問は非常に参考になります。

Q1 : 開発については変化はないのか?
現時点では変わらない。今回は研究全体と製造のみが一緒になるというだけ。今後どこまでアジャイル組織にするかは要検討。

Q2 : 人材面での変化はあるのか?人事・評価制度はどうなっているのか?
今は全部一緒でベンチャーもアステラス製薬の人事基準で評価している。今後は変えてく可能性もある。

Q3 : アメリカの会社と比べたときの組織論の違いはあるのか?
FDA承認薬の50-70%がベンチャー由来で、そういったベンチャーの組織構造を取り入れることで創薬の効率等が上がることを期待している。
また、アジャイル型組織にすることでベンチャー買収後にそれぞれのベンチャーに対して価値を最大化できるように柔軟に変化させていくことが可能と考えている。

Q4 : PROTACsの今後の展開はどう考えているのか?競合も含めて
アステラスとしては既に他社が狙っているターゲットではなく、既にターゲットとしてはある程度バリデートされているが、従来の低分子では狙えなかった標的を狙うことで考えています。

(そんなに鋭い質問や明確な答えはなかった。おそらく機関投資家も理解が完全には出来ていない様子)

個人的見解

ここからは個人的な見解として、今回のR&Dミーティングを聞いて感じたこと思ったことを書いていきたいと思います!

迅速判断、ベンチャーみたいな組織構造はどこも抱えている課題

コロナワクチン、治療薬等の開発スピードの違いから明確に分かってきたが、従来の内資的な判断スピードでは今後世界の創薬スピードについていくことは難しい
そこで、より判断を迅速かつ、組織間の連携を有機的にするという組織改革は近年製薬以外のあらゆる産業でも話題になっている。

しかし、実際に箱だけ作っても、中にいるヒトの動きやマインドが一気に変わるかというとそう上手くはいかないと思う。
今後アステラスも人事制度や社内教育を通じて、少しずつアジャイル型組織になっていくのであろうか?

また、機関投資家の質問が少し外れたものが多かったのも印象的だった。
さらに、会社側の答えもあまり明確ではないことから、上層部や社員がきちんと理解して、アジャイル型組織を構成していくのは時間がかかる印象がした。

自社創薬とは何か?

今回の組織改編は主に買収した海外ベンチャーをどう生かすかという話から始まっていると感じられた。
武田だけでなく、アステラスですらこういった形で外部・買収先との提携を主軸において、研究活動を進めていくことに決めていることが印象的だった。

今後は以前までの「完全自社創薬」ではなく、「自社創薬」という名の「外部ベンチャーからの技術の組み合わせ製品」が主流になっていく流れが感じられた。

もし自分がアステラスの研究員だったらどう思うか?

私がアステラス製薬の研究員だったらとても好感を持てる組織改編だと思う。

実際、現在の多くの内資組織は判断が遅く、外資や海外ベンチャーに技術や特許の点で負けていることが多い。

そこで、こういった組織構造を取ることで、自主的に素早くPDCAを回して研究を進められることは社内の研究者にとって嬉しいことのような気がする

しかし、アジャイル型の組織で不利益を被るのは、自主的に動けない指示待ち人間だと思う。
こういった人たちは、逆にピラミッド型の組織で、上司から言われたことを実行するだけの環境の方が心地はよいだろう。

つまり、アステラスでは今後、「自主的に動ける研究員」と「指示待ちの研究員」で二分化し、もちろん後者は関連会社や他部署に移動を余儀なくされると思う。

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