【モダリティ起点創薬が凄い】中外製薬の2022年R&D説明会を徹底解説

製薬企業分析

こんにちは、ティーダです。

今回は、先日開催された中外製薬の2022年のR&D説明会を個人的な見解も含めて、徹底解説します。

今回は主にオンコロジー以外の領域での開発品について説明する会として設定されています。

この記事を読むことで分かることは以下のことです!

  • OWL833 (GLP-1受容体作動薬) の進捗
    • 飲食制限無しの経口GLP-1作動薬
    • 2型糖尿病と肥満症に対するPh2試験は順調
  • GYM329 (抗潜在型ミオスタチンスイーピング抗体®) の進捗
    • 中外独自の中和&スイーピング能によるアプローチ
    • 他社の類似メカの抗体よりも非臨床で強い薬効
  • DONQ52 (グルテンペプチド提示HLA-DQ2.5への抗体) の進捗
    • 中外独自のマルチスペシフィック抗体 (25種類のペプチドに結合)
    • 患者検体を用いた非臨床試験でも良い成績

相変わらず独創的な技術が使われていて、非常に勉強になります!

https://www.chugai-pharm.co.jp/cont_file_dl.php?f=FILE_1_133.pdf&src=[%0],[%1]&rep=117,133

また、中外製薬に関する記事は当ブログには複数あるので、是非読んで理解を深めてください!

 



OWL833:プロジェクトの進捗

OWL833(orforglipron)とは?

  • 中外製薬が自社創製した経口投与可能な非ペプチド型GLP-1受容体作動薬
  • 2018年9月にイーライリリー社に全世界の開発権および販売権を導出
  • 2型糖尿病、肥満症の治療薬として開発中

GLP-1受容体作動薬は、「高い血糖降下作用」「単独では低血糖を起こさない」「心血管イベント抑制」など、糖尿病治療薬の中でも最も良いプロファイルの薬剤と言われています。

しかし、既に経口GLP-1作動薬はありますが、アンメットニーズがあります。

経口GLP-1作動薬のアンメットニーズ

服用時、服用後の飲食および、他薬剤の経口摂取を避ける必要がある。
そのため、まだ患者シェアも皮下注ほど広がっていない!

治験の結果

ここからは既に実施されている臨床試験の結果を簡単にまとめていきます!

健康成人対象のPh1試験
  • 用量依存的な薬物動態プロファイル
  • 体重は、4週間で6kg程度減少させる
  • 忍容性は良好
2 型糖尿病対象のPh1試験 (12週間投与)
  • 服薬後の飲食制限なしで,皮下注GLP-1受容体作動薬と同程度の血糖降下作用および体重減少作用
  • 1日1回投与可能な血中薬物動態プロファイルを確認
2 型糖尿病対象のPh2試験 (26週間投与)
  • 最大 2.1%の用量依存的なHbA1c低下
  • 最大9.6%の体重減少
肥満症対象のPh2試験 (36週間投与)
  • 14%~15%の体重減少

以上の結果を受けて、2型糖尿病および肥満症でのPh3試験を来年上半期に開始する予定です。

Ph3試験が予定どおり終了した場合、2025~2026 年に申請を計画しています。

レッドオーシャンのGLP-1作動薬をリリー先生がどうやって治験を進めるのか見物です。

GYM329:プロジェクトの進捗

GYM329とは?

  • 抗潜在型ミオスタチンスイーピング抗体®
  • 「潜在型ミオスタチンの除去」ミオスタチン活性化の抑制」によって、筋肉量増大と筋力増加を起こす
  • 2017年にロシュにライセンスアウトされ、脊髄性筋萎縮症 (SMA) と顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD) を対象に開発中
スイーピング能とは?

スイーピング抗体とは中外製薬独自の抗体エンジニアリング技術です。

「低pHで抗原から解離する可変領域」と「FcRnに結合するFc領域」の改変を加えてあり、可溶性の標的分子を除去する (一掃する) ことができるものとなっています。 (詳しくは以下を参照)

https://www.chugai-pharm.co.jp/cont_file_dl.php?f=FILE_1_37.pdf&src=[%0],[%1]&rep=117,37

ミオスタチンと阻害抗体のメカニズム

ミオスタチンは筋肉で分泌されで、活性化型ミオスタチンは、筋肉の成長や肥大を抑制する方向の因子で、筋肉が大きくなるのを防ぐ働きを持ちます。

なので、ミオスタチンの活性を阻害できれば、筋肉を増やしたり、筋力を増すことができると昔から考えられておりました。

そして、他社が開発している抗体は、主に活性化型ミオスタチンに結合して、これを中和する抗体でした。

しかし、従来のミオスタチン阻害抗体にはアンメットニーズがありました。

従来ミオスタチン阻害抗体のアンメットニーズ

従来抗体では、ミオスタチンを完全にブロックし切れておらず、薬効が十分に発揮出来ていない

中外製薬の抗体は、潜在型ミオスタチンに結合することによって、「活性型のミオスタチンになることを阻害する」という機能を持ちます。

さらに、抗体が持つスイーピング効果によって、「潜在型ミオスタチンを直接除去する」ことも可能です!

この二つの効果によって、ミオスタチンの作用を阻害して、それによって筋肉の量を増やして、筋力を増加させると考えています。

非臨床実験の結果

筋ジストロフィー病態モデルマウスでの評価
  • GYM329 (マウスサロゲート抗体) において、有意な筋力の増加
  • 他社抗体では、ほとんど筋力の増加効果が見られず、非常に高投与量で弱い変化
老化モデルマウスでの評価
  • GYM329 (マウスサロゲート抗体) において、ほとんど若い状態まで筋力が戻った
  • 他社抗体ではほとんど変化無く、非常に高投与量で少し回復
筋委縮モデルマウスでの評価
  • GYM329 (サロゲート抗体) のみで有意な筋力の増加
  • 他社抗体では全く変化していない

これだけ複数のマウスモデルで他社への優位性を示せるなら期待出来ますよね!

他社抗体との優位性

ミオスタチンへの結合特異性

ミオスタチンには非常に構造が似たタンパク質「GDF11」が存在します。

他社抗体は、「ミオスタチン」と「GDF11」を見分けられず、両方とも中和してしまいます。

しかし、GDF11を阻害することは、筋力増加においてネガティブな作用となることが明らかになっています。

つまり、ミオスタチン特異的に阻害しているということが、中外製抗体の大きな優位性を生んでいるのではないかと考えられます。

唯一無二のスイーピング能

スイーピング能もやはりこのGYM329 の作用に大きく寄与しています。

ミオスタチンは筋肉で沢山作られるため、筋肉のレセプターに直ぐ結合し、作用してしまうため、他社抗体では抑え切れないのではないかと予想しております。

そこで、スイーピング抗体によって潜在型ミオスタチンを直接除去することで強力な作用を示していると考えれられます。

実施中の臨床試験

  • 脊髄性筋萎縮症(SMA):エブリスディ併用のPh2/3試験

エブリスディによって、SMA患者さんの運動神経変性を抑制した上で、GYM329 を投与して筋肉を増やす戦略です。

  • 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD) :Ph2試験

GYM329 を投与することで、患者さんの筋肉成長を促して、筋力をアップさせて、運動機能を維持改善することを期待しています。

DONQ52:プロジェクトの進捗

DONQ52とは?

  • 標的分子:HLA-DQ2.5と複数種類のグルテンペプチドからなる複合体
  • 対象疾患:セリアック病
  • モダリティ:マルチスペシフィック抗体
  • 特徴
    • グルテンペプチドを提示したHLA-DQ2.5に結合する
    • セリアック病の主要因となる25種類以上のグルテンペプチドへ幅広い結合性を示す
    • グルテンペプチド特異性により、血中半減期の延長と忍容性が期待できる
セリアック病とは?

セリアック病は、グルテン摂取によって起こる、遺伝型の自己免疫性疾患で90%以上の患者さんで、HLA-DQ2.5 の遺伝子が認められます。

主に腸管内でT細胞活性化が起こり、腸管障害やさまざまな症状が認められます。

セリアック病の承認済みの治療薬はありません。

DONQ52の作用メカニズム

食事等で腸管から吸収されたグルテンは、抗原提示細胞 (APC) に取り込まれ、HLA-DQ2.5 を介して、グルテンペプチドが異物として抗原提示されます。

T 細胞上に存在するT細胞受容体がこの複合体に結合し、T 細胞が活性化され、免疫反応が起こり、腸管障害が認められます。

DONQ52は、HLA-DQ2.5とグルテンペプチドとの複合体に結合し、T 細胞活性化を阻害することで、腸管障害の抑制します。

創製のプロセス

DONQ52は、385、344 という二つの異なる抗体から作成されたマルチスペシフィック抗体で、この二つの抗体が様々なグルテンペプチドへの結合が可能です。

グルテンペプチド特異性と幅広い結合性、また強力な結合活性を同時に達成するために、中外製薬独自のハイスループットな抗体改変プロセスにより、抗体を最適化しました。

非臨床実験の結果

  • 25種類以上のグルテンペプチドへ幅広い結合性を示す。
  • セリアック病の要因となるT細胞活性化を再現したin vitro実験において幅広い阻害活性を示した
  • グルテンペプチド特異性のない抗体と比較し、DONQ52では抗体の血中半減期が延長した
  • 患者の血液を用いた実験において、グルテンペプチド刺激で誘導されるT細胞の活性化を抑制

上記の結果を受けて、現在Ph1試験を開始した段階です。

患者検体を用いた実験での有望な結果が大きな後押しになっているそうです!

 



機関投資家の質問

OWL833について、どういう背景で出てきたのか?

そもそも研究リソースの半分は低分子にかけており、低分子化合物をつくる高い技術力を持っている。

その中で、低分子でどういうものを狙っていくかということを考えたときに、当時、糖尿病が一つの疾患領域としてあった。

さらに、普通の低分子創薬では難しいものにチャレンジしようという考えが当時あった。

その結果、中外独自の合成技術を生かした、GLP-1作動薬の創薬が始まった。

マルチスペシフィック抗体にトライした背景は?

セリアック病に特に重要と思われるペプチドは5種類ぐらいだと思われていた。

この5種類を何とか抑えようと、スクリーニングをしていたら、意外と5種類以上を抑える抗体が沢山出てきた。

そこで、スクリーニングを広げてもっと広く抑えられないかということを追求してきた。

その結果、マルチスペシフィックで技術を開発しようと思っていたわけではないが、結果として非常にユニークなものができた。

中外製薬として、どういった創薬戦略と取っていくのか?

中外の創薬戦略は、基本的には技術ドリブン戦略で、技術をつくり上げて、それが最も価値を生み出せるようなターゲットや疾患に適応するというのを基本戦略としている。

その結果、製品の価値さえ高ければ市場は開いていくだろうというのが基本の考え。

いかに価値が高い、ユニークな独自性のあるものがつくれるかということが一番の優先順位にある。

ヘムライブラで成功した体験を再現出来ると考えているようですね!

DONQ52の他社への優位性は?

DONQ52の一番の特徴が、病態に最も重要と考えられるT細胞活性化を直接阻害できる点。

この点においては、他社が出来ていない点で、勝ち筋だと考えている。

また、血中半減期の延長をしているので、利便性が高い。

利便性と強い薬効、この2点が勝ち筋と考えている。

武田が最近導入したTAK-227は、組織トランスグルタミナーゼと呼ばれる酵素を阻害することで、グルテンからグルテンペプチドの産生を阻害していますね!

GLP-1受容体作動薬ではリバウンドが出る可能性はないのか?

過去の注射剤GLP-1製剤でも、きちんと投与継続している間は、体重はきちんと抑えられている。

ただ、きちんと投与がされていない場合は、やはり生活習慣などで体重は戻ってくるので、恐らく中外開発品でも同じような結果になる。

しかし、経口剤ならば続けやすいのでより良い可能性がある。

塩野義のR&D説明会で手代木社長が言っていたコメントをぶつけてますね笑

DONQ52について、患者検体を用いた実験結果はどれだけ期待出来るのか?

実際の患者サンプルを用いて、ほぼ完全にT細胞の抑制活性を示しているので、臨床においても十分効果が認められると考えられる。

個人的な見解

中外しか出来ないことなら何でもやる!

中計などでも言っていた点ですが、中外製薬の創薬戦略は圧倒的技術ドリブン」なんですよね!

これは今のプラットフォーム型の創薬戦略と類似していて、非常に効率的な戦略とだと思いますね!

現状の承認薬・開発品が満たせていないニーズを中外独自の技術でどれだけカバー出来るかを常に考えているのでしょう。

しかし、国内の開発職は少し大変そうですね。。。笑

疾患領域に応じて病院や医師との関係性を構築したり、臨床試験のクライテリアを調査・設定したり、非常に勉強することが多そうです!

中外で鍛えられたらどんな疾患領域でも担当出来る応用力は身につきそう!

その抗体技術使えてるの、当たり前じゃねえからな!

今回紹介されていたGYM329, DONQ52今まで中外が積み上げてきた抗体エンジニアリング技術がサラっと使われています。

  • GYM329:
    スイーピング抗体技術® (Fc領域と可変領域の改変)
  • DONQ52:
    バイスペシフィック技術、薬物動態改善技術、補体活性除去技術など

抗体技術を持っていない会社では土俵にも上がれないような高い技術力を見せつけられますね!

しかも、その技術をサラッと紹介して、1行で紹介しているところはエグいです。

ベンチャーならそれだけでR&D説明会開催しますよ!

技術があるからこと、アイデアさえあれば自由に革新的な創薬出来るという点は素晴らしい!

サッカーで例えるなら、ロナウジーニョみたいな感じ!!

最後に

さて、今回は中外製薬の2022年のR&D説明会を紹介していきました。

今回は技術紹介ではなく、開発品の詳細な解説という内容でした。

今まで確立・紹介されてきた技術が実際の開発品に繋がっている具体的な例を勉強出来たと思います。

当たり前のように作製して抗体の中にも中外独自の技術が沢山使われていましたね!

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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