【ざっくり解説】主要国内製薬の2022年6月期決算と各社最新ニュース動向

製薬企業分析

こんにちは。ティーダです。

先日の2022年7月25日から8月5日で、「主要内資製薬会社の決算」が出そろいましたね

今回も各社の決算内容をざっくりまとめた上で、各社の注目トピックを厳選して紹介していきます!

ひたすら決算資料とトランスクリプトを読む時期がやってきましたね!

前回と前々回の決算のまとめ記事もあるので、経時的に見れば製薬業界全体の流れや各社のニュースを追えるようになると思います!

継続的に一緒に勉強していきましょう!!



各社の決算一覧まとめ

こちらが主要内資製薬企業の決算まとめです。(売上高、営業利益、通期予想)

売上高は多くの企業で前年同期比で増加していますね。

これは各社スライドにもありますが、前決算同様、円安による影響が非常に大きいです。

営業利益は、武田、大塚、第一三共、エーザイ、田辺三菱、塩野義で前年同期比で減少しています。

特に、営業利益は「上がった企業」「下がった企業」の差が非常に大きいです。

また、大塚、協和キリンは主に為替の影響を加味して通期予想を修正しています。

各社の厳選注目トピックス

ここでは説明会資料を全て見た私が厳選した「各社の注目トピック」について簡単にまとめていきます。

武田薬品工業

  • 成長製品・新製品はCERベースで26%成長し、売上収益を牽引
  • LIVTENCITY (CMV治療) 、EXKIVITY (NSCLC治療) は米国における上市以降、堅調な立ち上がり
  • TAK-003 (デング熱ワクチン) のPh3試験では4.5年間にわたるデング熱予防効果を示した
  • 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎 (CIDP) の維持療法として、HyQviaはPh3において良好な結果
  • Momenta社から、高シアル化免疫グロブリン (hsIgG) を導入
  • TAK-994 (ナルコレプシー) を完全に開発中止

とうとう、TAK-994の開発が中止されました。

こちらは武田では珍しい自社創製品で、ブロックバスターを期待された製品でした。

2021年10月にPh2で安全性懸念が生じ、開発が中断しており、とうとう今期中止が発表されました。

武田薬品は、1990年代に上市したタケプロン、プロプレス、アクトス、リュープリン以降、1つとしてヒットした自社製品を出せていません。

そんな中、ナルコレプシー治療薬であるTAK‐994とTAK‐925によって、長年の汚名を挽回出来るはずでした。

しかも、既に研究主力がボストンに移ったにも関わらず、湘南研究所から生み出された上記2製品によって、日本の研究所の存在価値を示す期待もありました。

しかし、結果としてTAK-994は失敗していまい、TAK-925はまだPh1です。

今後、湘南研究所はどうなってしまうのでしょうか?
(一応まだ湘南研究所では新卒募集しているようですね。。。。)

大塚製薬

  • 売上収益は、グローバル4製品とNC関連事業の増収により、13.3%増収
    • グローバル4製品は前年比23.4%増の2912億円
  • 利益は、アケビア社との和解金で減益だが、それ以外はほぼ前年と同程度
  • レキサルティのアルツハイマー型認知症に対するアジテーションを対象としたPh3でPoC獲得
    • 売上高は200万ドル~250万ドルを予想
    • アジテーションに対して米国で承認された薬物療法はなく、ブルーオーシャン!
  • 軽-中等度の高血圧患者を対象とした「超音波腎デナベーションシステム」のRADIANCE-II試験においてPoC獲得
    • 年内の申請を計画中
  • sibeprenlimab (VIS649) はIgA腎症対象のPh3試験開始
  • TAS6417はPh1/2試験で良好な結果

グローバル4製品は順調で、第3次中計はしっかり達成出来そうです。

また、為替と事業再構築の影響を考慮して、2022年度通期業績を修正し、売上高を1200億円アップ、営業利益を400億円ダウンさせました。

修正された通期売上高1兆6700億円は大塚HD史上最高収益で、エビリファイに支えられた2014年の1兆5718億円を超える見込みです!

開発品としては、「レキサルティの適応拡大」が重要なニュースですが、レキサルティ自体の物質特許の残存期間がある程度限られる中で、短期間での収益化戦略について投資家は気になっているようです。

アステラス製薬

  • XTANDIおよび重点戦略製品の売上は前同比較で26%の伸長
  • 為替の影響で営業利益が減少したが、為替影響を除けば想定通り伸長
  • パドセブとPD-1抗体の併用試験で、有効性および安全性を示す、良好なトップライン結果を取得 (EV-103試験)
  • fezolinetantは、FDAに新薬承認申請を提出 (6月22日)
    • 臨床データの公表や啓発活動も順調に進展中
  • AT845において、重篤な有害事象によって、FDAから臨床試験の差し止め
    • 現在対応中、2022年度第4四半期に回答提出予定
  • 細胞医療ASP7317 (加齢黄斑変性) が臨床試験再開
  • PROTAC技術を用いたASP3082 (KRAS G12D変異体) でPh1試験開始

遺伝子治療については、AT132は差し止め、AT702, AT751, AT753は開発中止が決定しています。

しかし、今回AT845が差し止めを受けたことで、現在臨床開発している遺伝子治療製品はなくなりました。

今後も遺伝子治療へのコミットは続けていくとのことでしたが、根本的な課題が存在する可能性がいよいよ顕在化してきた気がします。

PROTACプログラムであるASP3082のターゲットがKRAS変異体であることが公表されました。

PROTAC技術自体はPrimary Focus候補の技術として以前から挙げられていましたが、ターゲットが判明したのは今決算で初めてです。

KRASは中外製薬の中分子luna18でも狙われているターゲットで、海外でも複数取り組まれています。

KRASでは変異体が複数あり、変異体単体を狙った方が良いのか、ブロードに阻害するのが良いのか議論が分かれている標的です。

第一三共

  • 売上収益は増収したが、営業利益は減益
    • アストラゼネカ社とのネキシウムの共同販促を終了したため、197億円の減収
    • 為替による影響で174億円の減益
  • エンハーツの売上は堅調な増加
    • 米国にて、HER2低発現乳がんに対する申請が受理され、優先審査に指定。
      2022年8月に承認取得!!2週間で承認!
  • Dato-DXdは新たな試験が開始
    • TROPION-Breast02試験 (TNBC 1L, Ph3 )を2022年6月に開始
    • TROPION-PanTumor02試験 (NSCLC/TNBC, Ph1/2, 中国のみ) を2022年7月に開始
  • DS-7300 (B7-H3-ADC)
    • 進展型SCLCで至適用量設定のためのPh2を2022年6月に開始
  • DS-5670
    • 初回免疫:2022年度上半期に国内でのPh3試験を検討中
    • 追加免疫:2022年5月にPart2を開始。2022年内に実用化を目指す
  • DS-2325 (KLK5阻害剤) による、ネザートン症候群を対象としたPh1開始

HER2低発現乳がんに対するFDA承認を取得したので、今年度の決算にも多少影響があるでしょう

AZ社からは2億ドルの開発マイルストンを受領する予定です。

申請から承認まで尋常じゃないスピードですね!
世界初のHER2低発現に対する薬剤です。

それに伴い、HER2-lowを定義する診断薬の開発について急がれています。

2022年7月、Seagen社とのADC技術を巡る特許争いについて、Seagen社側の主張を認める判決が下されています。

https://www.daiichisankyo.co.jp/files/news/pressrelease/pdf/202207/20220720_J1.pdf

これのよって、第一三共側は何らかの損害賠償を被る可能性が高まってきました。

仲裁などの今後の動向にも注目です。

Fubukiさんによる解説記事が分かりやすいので、参考にしてください!

Seagen社の抗体薬物複合体(ADC)特許と第一三共「Enhertu®(エンハーツ)」を巡る米国特許侵害訴訟 第一三共に対して特許の故意侵害があったと陪審員が認定
Seagen社と第一三共との間で争われていたEnhertu®(エンハーツ)を巡る米国特許侵害訴訟において、テキサス州東部地区連邦地方裁判所の陪審員は、第一三共による特許の故意侵害があったと評決したことを、2022年4月8日(現地時間)、両社

中外製薬

  • 好調な新製品群とロナプリープによって、大幅な増収増益!!
    • ロナプリープは603億円の売上
    • 薬価改定の影響は、新製品群の成長で吸収
  • 自社創薬・導出品ネモリズマブの結節性痒疹に対するPh3で主要評価項目を達成
  • テセントリクが国内初のNSCLC 術後補助アジュバントの適応追加
  • GYM329の、小児の脊髄性筋萎縮症 (SMA) に対する、SMA治療薬エブリスディとの併用Ph2/3試験
  • ガザイバ (オビヌツズマブ) の、ループス腎炎に対する国内Ph3開始
  • クロバリマブ (抗補体C5リサイクリング抗体) の、ループス腎炎に対する海外Ph1開始予定

相変わらず、全体的に好調な決算ですね!

ヘムライブラについては、現在7品目ほどの後期開発の競合品があり、投資家から多少心配されているところがあるようです。

エーザイ

  • 前年度にMORAb-202契約一時金を受け取っていたため、前年同期比では減収減益
    • 医薬品事業自体は、レンビマを筆頭に23%成長で堅調
  • レカネマブは迅速承認制度に基づく申請を米国FDAが受理
    • Clarity AD (Ph3試験) は2022年9月予定のPrimary Endpointに向けて順調に進行中
  • 新規のエーザイオリジナルのオレキシンアゴニスト E2086のPh1を2022年度内に開始予定
  • MORAb-202はPh1において、すぐれた抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルを示した
  • 中分子CBP/β-catenin阻害剤 (E7386) はキイトルーダ+E7386併用療法の用量同定パートを完了
  • Protein degraderペイロードを有するADCや、スプライシングモジュレーターペイロードを有するADCを前臨床段階で検討中

レカネマブの非常に重要なPh3試験の結果が2022年9月に公開されます。

試験自体は順調で、結果も期待出来ますね!来月の公開に期待です!

また、エーザイのアルツハイマーに対する包括的パイプラインが紹介されていました。

包括的AD Continuum (ATN+) パイプライン
  • アミロイドβ凝集体 (A):
    • レカネマブ (抗Aβプロトフィブリル抗体)
  • タウ (T):
    • E28147 (抗MTBR8タウ抗体)
  • 神経・シナプス変性 (N):
    • E2511 (TrkA結合シナプス再生剤)
    • E2025 (抗EphA4抗体、シナプス障害)
  • オレキシンプラットフォーム
    • E2086 (オレキシンアゴニスト)

さらに、がん領域でも期待出来る候補品が紹介されていました。

特にPROTACスプライシングモジュレーターを結合させたADCについては、低分子とADC技術の療法に強みを持つエーザイならではのコンビネーションだと思います。

MORAb-202は自社で創製したADC製品で、新たなプラットフォーム技術を自社で創製して、既存の強みであった低分子技術と組み合わせたのは素晴らしいです!



住友ファーマ

  • 為替の影響や、ラツーダの堅調な成長で前年同期比増収増益
    • オルゴビクスの欧州におけるライセンス契約に基づく⼀時⾦ ($50M)を含む
  • 研究開発について、2022年5⽉以降の変更はなし!
  • トルリシティの販売提携が契約終了
    • 2021年度は国内で336億円の売上を誇る大黒柱
  • Pierre Fabre社と欧州でのジェムテサ (ビベグロン) の独占的販売ライセンス契約を締結
    • 最⼤$75Mおよびロイヤリティを受領予定

2024年度のulotaront上市 (統合失調症) は確実に達成する必要あり、今年度でラツーダの特許が切れることから投資家からは非常に心配されています。

ulotarontのPh3完了から承認〜売上最大化までの間を繋げる製品はあるのでしょうか?

ulotarontの一本足打法感は否めないですよね。。。

トルリシティの次世代品である「チルゼパチド」は田辺三菱に販売提携を取られ、さらにトルリシティ自体の販売提携が終了しました。

国内売上高の大部分を占めるトルリシティの消滅は国内ビジネスの構造を揺るがす大問題だと思います。

田辺三菱製薬

  • 薬価改定や為替による研究開発費の増加により、増収減益
  • MT-0551で全身性強皮症を対象に国内Ph3開始
  • GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」の販売提携契約締結
  • 遺伝子組換え人血清アルブミン事業を終息させる発表
  • カナダの子会社メディカゴの新型コロナワクチンについて、カナダ政府への供給ができていないと発表
    • 商用生産への移行で課題が出ている
    • 9月末としてきた国内での製造販売承認申請についても、遅れる可能性

上記住友ファーマとの提携が終了したトルリシティの次世代品「チルゼパチド」は田辺三菱が獲得しました!

販売提携を結ぶのは非常に上手いと言えますね!!

今後は新薬会社じゃなくて、コプロ会社として生きていくしかないのか?

三菱グループの中で、医薬品事業は別で説明会資料が準備されていたのですが、今期からなくなりました。

これは、本格的にグループ会社として傘下に吸収されたことと、スライドを作るほど重要視されていないことを示すと個人的に思います。。。

協和キリン

  • グローバル3製品を中心に、増収増益!
    • 為替影響とKW-6356開発中止を受けて、通期業績予想を上方修正
  • Rocatinlimab (KHK4083/AMG 451) のPh3試験 (ROCKETプログラム) の修正
    • 基本的には年内には開始したいが、一部は来期1Qにずれ込む可能性もある
  • KW-6356は市場性や開発難度から開発中止

中期経営計画で掲げた次世代品パイプラインの全てが開発遅延や中止などのイベントが起こっています。

そのため、より前臨床からの新たな開発品や、導入品などを考えて必要があると会社も認識しているようです。

R&D説明会で紹介されたバイスペシフィック抗体とかの製品がなかなか臨床に上がってこないですよね!

小野薬品工業

  • オプジーボとフォシーガの成長によって、増収増益!
  • ONO-2020 (自社創製のエピジェネティクス制御薬) を神経変性疾患を対象としたPh1開始

特段大きなニュースはありませんでした。

オプジーボは好調に売上を伸ばしていますね。

塩野義製薬

  • 売上高は前年度分のHIV薬のロイヤリティー収入が上乗せされて増収
    • COVID19関連製品の通期予想を除くと通期予想に順調に進捗
  • COVID19関連の研究費の投資によって、営業利益は減益
  • ゾコーバ (S-217622)
    • 審議会では、Ph3の進捗状況を踏まえ継続審議が決定
    • Ph3の症例登録完了。8~9月中にトップラインデータを出す予定
    • 米国や中国、韓国でも申請に向けて協議中
    • 小児や発症予防の各種治験も準備中
  • COVID19ワクチン (S-268019)
    • 中和抗体価比較試験 ( vs AZ社ワクチン) は上期中に論文投稿
    • 追加免疫比較試験も良好な有効性と安全性を確認
    • 上期中の製造販売承認申請を予定
  • 新規抗真菌薬オロロフィムのライセンス契約締結 (F2G社)
    • 侵襲性アスペルギルス症を対象。Ph3試験実施中

なんと言っても1Qのホットな話題は「ゾコーバの審議会」でしょう!

Youtubeでライブ配信された非常に注目された審議会でした。

議論結果は、Ph3を待つことになりましたので、塩野義は早急にPh3結果を出す計画です。

Ph3パートについては、主要評価項目をPh2bから変更しているため、達成出来る可能性は十分にあります。
(Ph2bの事後解析では有意差があった項目も含まれます)

https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031210350から抜粋

達成した時にどのように議論が進められるのか楽しみですね!

審議会では、色んな先生が率直な意見を発していて非常に興味深かったですね笑

ワクチンに関しては前回の決算では6~7月を目処に申請する計画でしたが、少し遅れているようです。

塩野義はコロナ関連製品で、通期に1100億円を予想しているので、どちらか1つは承認されないと厳しい状況です。

最後に

さて、今回は主要製薬企業の2022年6月期の決算をまとめました。

各社共に為替の影響を受けながら奮闘しているところですね!

今決算付近で最も注目すべき話題は以下の4つだと思います。

今決算でのホットな話題
  • 第一三共:HER2低発現適応の承認取得
  • アステラス製薬:AT845の治験差し止め
  • 住友ファーマ:トルリシティの販売提携終了
  • 塩野義製薬:ゾコーバの緊急承認見送り

各社の内容には関連する当ブログの記事もあるので是非読んで理解を深めてください!

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!

【絶対読むべきの書籍紹介】

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