今回は2021年2月4日に公表された「協和キリン 2021~2025年中期経営計画」について個人的な見解と最新情報を含めてまとめます!
こちらの記事を読むことで、協和キリンが目標とするグローバルスペシャリティファーマに向けて進もうとしている方向性と将来性が理解出来ます。
新卒就活や転職、業界研究に役立てて頂けると幸いです!
前回中計の振り返り
前回中計では、「四つの定性的目標」と、「三つの定量的目標」を設定していました。
それぞれの結果は以下です。
定性的な目標は概ね達成しました。
- 三つのグローバル戦略品全ての海外上市に成功
- 次世代開発品の後期臨床試験も進んでおり、研究パイプラインも充実してきた
定量的な目標は未達を残しました。
- 海外売上比率は48%まで上がった (中計初年度時点では28%)
- コア営業利益 (目標:1000億円、実績:600億円) 、ROE (目標:10%、実績:6.8%) は未達。
以上、 特に定量的な目標について課題は残したものの、前回中計をある程度達成出来たので、次の成長戦略に進むことを決定しました。
グローバル戦略3品とは:
Crysvita, Poteligeo, Nouriastのことを指します。
USを中心にした世界市場で、これらの自社創製品について、協和キリン単独で開発販売を行うことでグローバル製薬企業に成長しようと考えています。
中計の全体概観
今回の中計で示されている「定性的な目標」、「定量的な目標」をそれぞれ以下に提示します。
定性的な目標
中計では、協和キリンの「2025年のありたい姿」を以下のように設定しました。
- グローバル製品の価値最大化
- グローバルでの安定供給体制の確立
- 2025年以降の成長を牽引するパイプラインの確保
- 医薬品にとどまらないサービスの具体化
- グローバル事業展開にふさわしい企業文化の醸成
そして、上記の5つのビジョンを達成するために3つの戦略を設定しました。
- UMNを満たす医薬品の提供
- グローバル戦略3品の価値最大化
- 画期的な医薬品の継続的創出
- 患者さんを中心においた医療ニーズへの対応
- ペイシェントアドボカシー
- 医薬品にとどまらない価値の提供
- 社会からの信頼獲得
- 高品質な医薬品の安定供給
- 地球環境の保全への貢献
2025年までに上記のビジョンを達成し、2026~2030年にはグローバル・スペシャリティファーマを実現する計画です。
定量的な目標
さらに、協和キリンの財務的な目標について以下の様に示しています。
- コア営業利益率:25%以上
- 売上高:約5000億円 (正確には2020年度から10%以上ずつの成長を設定)
- ROE:10%以上
- 研究開発費率:18~20% (2020年度は16%)
以下では特に研究開発面での戦略について重点を置いて解説していきます。
UMNを満たす医薬品の提供
今期中計を達成する上でもちろん重要になるのは今後の製品の研究開発になります。
そこで、ここでは「上市品の今後の戦略」と「次世代開発品の展望」について紹介していきます。
グローバル戦略3品の価値最大化
新中計における成長については、主にこのグローバル戦略 3 製品が牽引すると考えており、それぞれの製品価値の最大化が重要な施策になります。
Crysvita (抗FGF23抗体):X染色体連鎖性低リン血症 (XLH) 、腫瘍性骨軟化症 (TIO)(2021年度:世界800億円超)
Crysvitaは抗FGF23抗体です。
血清リン濃度を低下させるFGF23と結合し、その過剰な作用を中和することで、血清リン濃度を上昇させます。
こちらは協和キリン初のブロックバスターになり得る稼ぎ頭です。
ピーク時の売上高は1500億円を見込んでいます。
現在は26ヶ国での上市ですが、25年までには50ヶ国以上に販売できるよう、販売地域の拡大を進めていきます。
現在USでは、共同開発先のウルトラジェニクス社と販売を行っています。
2023年からは、ウルトラジェニクス社に代わって自社販売を始めるために、円滑な移行に向けた準備を進めています。
Poteligeo (抗CCR4抗体):血液ガン(2021年度:世界200億円)
こちらは主に血液ガンのガン細胞に高発現していることが知られているCCR4をターゲットとしたADCC強化型抗体医薬品です。
グローバルでは、CTCL (皮膚T細胞性リンパ腫) 初期患者での治療意義を明確にするとともに、CTCLの病勢コントロールやQOLを改善できることを示していきます。
日本では、ATL (成人T細胞白血病リンパ腫) 治療における貢献意義をより明確にしていきます。
Nouriast (アデノシンA2A受容体拮抗薬):パーキンソン病(2021年度:世界150億円)
こちらはA2A受容体へのアデノシンの結合を阻害することで、レボドパ併用時の副作用を低減することを期待しています。
戦略としては、臨床エビデンスを収集し、治療上のポジショニングを確立し、グローバルでレボドパとの併用によるオフ時間管理の標準治療になることを目指していきたいと考えています。
画期的な医薬品の継続的創出
以下では2025年以降の協和キリンを支える「次世代開発品の開発現状」と「技術プラットフォーム」について解説しています。
こちらの内容は2020年度のR&D説明会でも詳しく説明されていたので、そちらも参考にしてもらえると理解が進むと思います。
次世代戦略品
さらに、2025年以降の協和キリンを支える次世代開発品としては以下の5品目が考えられます。
この中では特に注目されているのはKHK4083 (抗OX40抗体) になります。
こちらはAmgen社とのUSでの共同開発が決定しており、世界売上高も期待される製品です。
RTA402は米国で2021年末にFDAが承認について対して否定的な見解を示しており、日本での申請にも影響を及ぼす可能性はありそうです。
しかし、Evaluate社が出している「世界でも最も価値が高い新薬開発プロジェクト」の中には、世界第6位にランクインしており、2026年時点での世界売上高は23.33億ドルを予想しています。
ちゃんと上市出来れば価値は高そうですね!!
技術プラットフォームの構築
技術プラットフォームについては4つのモダリティに着目しています。
さらに、それぞれを個々に磨き上げるだけではなく、これらモダリティの融合にも挑戦することで、圧倒的な競合優位性を持つ技術プラットフォームの構築を目指してまいります。
- 抗体
- 低分子
- 核酸
- 再生医療
特に上記モダリティの中でも、次世代を担う技術として具体的に以下の3点を上げています。
- 自社創製バイスペシフィック抗体技術
バイスペシフィック抗体はガンを標的としている研究が進んでいます (R&D資料より)。
おそらくEngagerといわれる技術で、中外製薬も注力して研究していますし、武田薬品や海外メガファーマも注目している技術です。
他社に対しては、独自の有望なターゲットを狙っていくことで差別化していく必要がありそうです。
特許情報を見てみた:
免疫細胞関連の受容体であるCD40やCD3と、ガン側の抗原であるGPC3やFAPといったタンパク質をバイスペシフィックで狙う特許を出していますね。
これらが今後開発品として上がってくるのでしょうか?
- 革新的な低分子創薬技術開発
こちらは低分子基盤をもつアクセリードDDP社と協業して、低分子創薬に注力している研究になります。
さらに、2021年11月1日、この共同研究にイクスフォレストセラピューティクスが加わりました。
この会社は「RNA構造を標的とする創薬」に強みを持つ会社で、低分子でRNA構造を狙った薬を創製することを目的に協業を開始しています。
近年RNA構造を狙った低分子創薬は注目されている分野です。塩野義製薬などもベンチャーと協業して研究を進めています。
- データ駆動型創薬の推進
こちらはInveniAI社との提携で、抗体技術をメインとしてターゲット探索にAIを使用するような協業体制になります。
最近流行のAI創薬です。
これについてはどれだけちゃんとアウトプットを出せるかが重要になってきます。実際、AI技術で創薬した化合物は上市されてません。
- その他
以前、SBI-9674という自己免疫疾患をターゲットとした導入品が2020年のR&D説明会で紹介されていました。
今回の中計のどこにも触れられていないと言うことは開発はどうなっているのでしょうか??(中止?延期?)
また、協和キリンは2021年8月に、オランダのSynaffixと抗体薬物複合体(ADC)創製技術に関するライセンス契約を結んでいます。そこで、2つの標的に対するADCを創製する権利を取得しています。
ADC技術について展開していく方向性も見えていますね。
その他の個人的に注目すべき取り組み
- 薬以外のヘルスケアサービス
デジタルを含む新たな価値を創出するためのプロジェクトチームを発足させ、課題の探索と解決策の考案に挑戦しています。
キリングループが注力するヘルスサイエンス事業とも協業を活用していく予定です。
これは最近の中外製薬、塩野義製薬、アステラス製薬でもよく見られるヘルスケアビジネスの新しいトレンドですね〜
所謂、「HaaS」や「インサイトビジネス」と呼ばれています。
機関投資家の質問
Q:KHK4083の開発については自社単独で実施するのか?他社と協業するのか??
A:自社でずっとやるオプション、他社さんと組んでやるというオプション、いろんなことを今検討しているところ。
2021年6月1日にAmgen社との共同開発契約を締結:https://ir.kyowakirin.com/ja/library/events/main/07/teaserItems1/00/linkList/02/link/20210601_presentation_J.pdf
Q:4大モダリティとか4大疾患とかの前回の中計であった記述がなくなっている。特にモダリティ基盤強化についてはどれほど進んでいるのか?開発品があるところを後付けで重点領域にしている印象がある。
A:4大疾患という考え方は少しトーンダウンしていく。グローバル戦略3製品の周辺領域を開拓していきたい。
モダリティについては新たに取り組んでいた遺伝子と再生医療が上手くいっていないため、方向転換が必要かもしれない。
Q:Kymab社のOX40 のリガンド (OX40L) をターゲットにした薬剤を Sanofi が導入したが、そちらとの優位性を教えて欲しい
A:OX40 をターゲットにすることで ADCC によって細胞を除去できるため、他のサイトカインに対する抗体医薬品等の先行品より強力かつ持続的な薬効が得られるのではないかと期待している。
また、初期の段階では、OX40L等の他のターゲットも検討をした上で、今の開発候補品を選んだ。
Q:現行の開発品がそれぞれいくら売上高を出せるのかのイメージする金額を知りたい
A:
KHK4083 :
もともとの市場がかなり大きい (約2兆円) ので、ブロックバスターに育てていきたい
ME-401:
血液ガン等へ適応拡大することで、大きな市場が期待できる
KW-6356:
ノウリアスト以上は見込んでいる
RTA 402:
グローバルで見ると、かなり、ひょっとしたら大きくなるのではないかと思っている
Q:財務目標を本当に達成できる確度はあるのか?前回の中計で大きく外れているところがあり、正直不安である。
A:今回の中計の中ではこのグローバル 3 製品の成長がやはり一番ポイントになってくる。
Crysvitaを中心にしっかり伸ばせれば可能だと考えている。
Q:売上高、ざっと 2,000 億円ぐらい増額していくような計画になっているかと思うのですが、それをどのようなアイテムで埋めていくのか?
A:主にグローバル3製品。特にCrysvita。導入は現状は考えてない。
個人的な見解
全体的に資料は見やすくまとまっていましたし、内容も無難な内容でした。
しかし、他社に比べたら少し曖昧な部分が多い印象でしたね。
新しいモダリティ技術を自社単独で構築するのはやっぱり難しい
質疑応答の中でもありましたが、再生医療と遺伝子は少し壁に当たっているようでした
外部から見る限りは他社と協業するわけでなく、自社独自もしくはアカデミア等とコラボしながら研究は進めていたのかもしれません。
今後はADCやRNA創薬など別のモダリティにシフトしていくのでしょうか?
機関投資家の質問が他社より厳しい印象
説明会全体としては、機関投資家が結構厳しい質問をしてるように感じました。
他の製薬企業では同じ機関投資家さんもそこまで厳しいことを言わない印象ですが、協和キリンに対しては結構きつかったですね。
やはり、前回の中計での財務目標を大きく下回ったことから、懸念されている様子です。
グローバル戦略3品の開発戦略が抽象的じゃない?
第一三共や中外製薬の資料を見ているとかなり具体的に開発戦略や適応拡大戦略が説明されています。
今回は中計なので、R&Dについては説明は少なくて当たり前ですが、グローバル3製品ぐらいはもう少し具体的に今後の戦略を説明して欲しかったです。
投資家も本当にグローバル3製品だけであと2000億円が積み上がるのかを心配しているのですから。。。
最後に
しばらくはCrysvitaの世界売上高が支えてくれるので経営は安泰な印象です。また、グローバル戦略3品でUSでの販売網も構築できれば良いと思います。
後は次世代製品がどれだけの売上高を期待出来るのかが重要です。
特にKHK4083が次の稼ぎ頭になりそうなので、注目です!!
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