こんにちは、ティーダです。
今回は、先日2022年4月28日に発売された『コロナと創薬 なぜ日本の製薬企業は出遅れたのか』という良書を紹介します。
正直本書を読む前は、
コロナのワクチンや治療薬の開発経緯とかの話なんだろうな〜
大体知ってるし軽く読もう〜
と思ってました。
しかし、
実は、コロナ創薬の話から始まり、世界の製薬企業の沿革や歴史、モダリティの変遷、内資製薬の新薬創製の秘話など、現代の製薬業界全体を俯瞰した非常に勉強になる内容でした!
そんなわけで、いつも製薬業界の解説をしている私としては「取り上げない訳にはいかん!」と思い、こちらで紹介します。
この記事では個人的にピックアップした話しかしないので、興味を持った方は是非購入してみてください!
製薬で働く人なら絶対に読むべき1冊です!
著者は日経バイオテクの元編集長
こちらの本の著者は橋本宗明さんという、現日経バイオテク編集委員で、前日経バイオテク編集長の方です。
日経バイオテクと言えば、様々なバイオ関連情報を提供する情報誌です。
記事を読むには少し高い購読料がかかりますが、情報ソースとしては有用なのでいつも概要だけ見ています。
その日経バイオテクの元編集長の著書なので、実際のインタビューに基づいた内容や、私が生まれる前からの製薬業界の流れなど、非常に含蓄ある内容になっています
全体の内容構成
こちらが本書の大まかな構成です!
- コロナに関する話題
- 日本と海外のワクチン全般の実情
- 日本と海外のコロナワクチン創製への施策の違い
- コロナ治療薬への国内と海外の取り組み
- 創薬モダリティについて
- 世界がバイオ医薬へ移行する流れに日本が乗り遅れた理由
- 新規モダリティの製造設備の困難さ
- mRNA治療薬の展望
- 世界と日本の製薬業界の変遷
- メガファーマ誕生の歴史
- バイオベンチャーの隆盛
- オープンイノベーションと研究エコシステムの加速
- 内資製薬の今後の展望
- 日本の創薬イノベーション
- 中外製薬のヘムライブラ誕生秘話
- 第一三共のエンハーツ誕生秘話
- 協和キリンのクリースビータ誕生秘話
- 塩野義製薬のフェトロージャ誕生秘話
個人的に最も興味深かったのは「日本の創薬イノベーション」として、どうやって革新的な新薬が出来たのかを紹介した章でした!
前半のPart①〜③では、コロナ創薬や新規創薬モダリティについて、日本が現状負けていることを思い知らされます。
しかし、最後のPart④では「日本の製薬もまだまだ負けない!」という気持ちになる構成でした。
例えるなら、「製薬版のシン・ニホン」みたいな感じですね!
読んでみて現役内資製薬研究者が感じたこと
ここからは、本書を読んで現役内資製薬企業研究者ある私が感じたことを書きます。
特に、ブロックバスターを作った誕生秘話からは非常にためになる経験を学べたと考えています。
「本書の具体的内容」を「一般的な事柄」に落とし込んで、自身の研究に活用していきます。
イノベーションは諦めない心から生まれる
今回紹介された4つの薬は全て一度は社内で否定的な意見や、中止といった状況に追い込まれています。
例えば、ヘムライブラは、一度会社から研究中止を言い渡されています。
その後、チームメンバーで再度提案して、10人程度で背水の陣で挑んだ結果、ヘムライブラは生まれました。
それぞれの理由は納得いくものですし、当時の判断としては間違ってはいなかったと思います。
しかし、その逆境を押しのけて研究者が無理矢理進めたことで、ブロックバスターは生まれました。
逆に彼らが諦めていたら確実にプロジェクトは終わり、製品は出ていないでしょう。
それを考えると現場研究者の諦めは本当に一つの薬を終わらせる判断に繋がるのだと思い知りました。
市場規模予想とアンメットニーズ探索の難しさ
長い間、クリースビーダの適応患者数は少なく、市場価値が低いと会社側に認識されていたそうです。
また、KOLにインタビューをしても、そんなニーズはないと言われたそうです。
しかし、患者団体に聞くとアンメットニーズが非常にあるという回答が得られました。
そして、上市されれば今ではブロックバスター級になっています。
この話から分かるのは、単純な市場調査やKOLインタビューだけではそのプロジェクトの価値を判断することは難しいということです。
実際に患者の声を聞くことで隠れているニーズが現れる可能性もあります。
(もちろん、それぞれのバランスは大事なんでしょうけど。。。)
参天製薬では、患者の声を包括的に取り入れるシステムを導入しています。
やはり、スペシャリティーファーマにとっては必要な市場調査方法なのでしょうね。
将来を見据えて、どこで勝てるかを考える
中外製薬の血友病に対する二重特異性抗体が提案されたのは2000年だったらしいです。
2000年では、普通の抗体医薬すら海外でもまだ10品目も販売されませんでした。
そんな時代に先を見越してより先進的な技術を始めた中外製薬研究員は凄いと思います。
また、ADC技術については、初期製品は抗体に化合物が3, 4つしか付いていなかったらしいです。
そこで、低分子創薬に強みを持つの第一三共は、自分たちの技術力で8個の化合物を付けられると見込んで、参入しました。
これらの話から言えることは、現状と未来の技術を見比べ、自分の立ち位置を把握した上で、将来どこで勝てるかを考えることが重要ということです。
未来志向は大事なことですが、未来ばかり見ていても現実がついてくるのが100年先では困りますよね。
10~15年後の未来をちょうど見据えて戦略を立てることの大切さをこの成功例から学びましょう。
製造まで含めて創薬
今回の4つの薬の話で共通していたのは、製造が非常に難しいということです。
ヘムライブラでは、製造過程で、10パターンの抗体が出来てしまい、それらを除くことが出来ないという課題がありました。
また、フェトロージャでは、化合物の結晶化が出来ませんでした。
そこで、引退したOBを連れてきて、そのOBが化合物の声を聞いて超スピードで結晶化を成功させました。
ADC技術も抗体に化合物を8個ついたものを安定的に製造することは非常に困難だったそうです。
これらの話から言えることは、結局非臨床でいくら素晴らしい薬が出来ても製造段階で大量生産が出来ななければ無価値ということです。
就活の時は、
なんでこの会社は低分子創薬だけやっているんだろう、抗体も遺伝子も細胞療法もやれば選択肢が広がるのに。。。
と思っていました。
しかし、新たなモダリティに手を出すということは、生産設備やノウハウを1から構築するということで、非常に大きな投資になるということを理解しました。
現代の創薬ではプラットフォーム構築が最も大事
上記の企業ではそれぞれ、「この会社ならこの技術!」と社外/世界から認識されているプラットフォームが存在すると思います。
(大小と強弱はありますが。。。)
これは長年かけて培った固有の財産です。
単発でブロックバスターを出しても、技術やノウハウの蓄積がなくてはパテントクリフに陥ることが現代製薬では当たり前になっています。
強みを持てていない企業としては、小野薬品や住友ファーマが考えられると思います。
この2社はブロックバスターを出したにも関わらずその領域で強みを作れず、小野薬品は中枢神経領域へ、住友は再生医療や導入品へと移行しています。
このままではなかなか地盤が安定するのは大変でしょう。
最後に
今回は、『コロナと創薬 なぜ日本の製薬企業は出遅れたのか』という良書について紹介してきました。
本書を読んで最も強く感じたことは、「日本の製薬もまだまだ負けてない、これから頑張ろう」ということでした。
是非本書から学んだことを自分の研究にも取り入れて今後のキャリアに生かしていってください!
製薬業界の方は一読を本当にオススメします!必読書の一つだと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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