こんにちは、ティーダです。
今回は、先日開催されたアステラス製薬の2022年度R&Dミーティング「標的タンパク質分解誘導」について、個人的な見解も含めて徹底解説します。
アステラス製薬は近年はR&Dミーティングという形で毎年1演題の次世代研究領域への取り組みを紹介しています。
2018年:細胞療法
2019年:がん免疫
2020年:FocusAreaアプローチの進捗
2021年:遺伝子治療
2022年:標的タンパク質分解誘導←NEW!!
今年は「標的タンパク質分解誘導」のプラットフォーム構築に関する説明会でした。
こちらを読むことで、アステラス製薬がイクスタンジクリフを乗り越えるための次世代の柱の一つとしている領域の戦略と将来性が理解出来ます。
また、前回のR&D説明会や中期経営計画についても本ブログでまとめているので、こちらも是非読んで理解を深めて下さい!
標的タンパク質分解誘導って何?
標的タンパク質分解誘導の基本
「標的タンパク質」と「E3リガーゼ」を近づける構造をしている化合物です。
両者を近づけることで、E3リガーゼによるユビキチン・プロテアソーム系によって、細胞内の標的タンパク質を分解することが可能です。 (以下図)
これによって、疾患に関係するタンパク質を分解し、標的細胞の増殖抑制などが可能です。
標的タンパク質分解誘導は近年世界的にも注目を集めているモダリティで、国内ではエーザイやGNIグループ等も進めていますね。
標的タンパク質分解誘導の利点
標的タンパク質分解誘導では従来の低分子医薬や抗体医薬にはない利点が複数存在します。
現在はPh2 (がん領域が中心) が最も進んでいる開発品で、上市されている製品はありません。
海外だと、Arvinas社やKymera社が有名で、ファイザー社やサノフィ社が提携してますね。
先日Arvinas社のARV-471が乳がん患者対象のPh2において、良好な結果を報告しています。
標的タンパク質分解誘導剤の分野はこれから益々ホットになりそうですね!
標的タンパク質分解誘導の詳しい歴史や最先端の技術等については以下の書籍にも載っているので是非読んでみてください!
自社開発品 ASP3082 (KRAS G12D) のポテンシャル
KRAS G12Dは高難度だが、魅力的な標的
KRAS変異は昔から注目されている有名ながん遺伝子変異で、長年創薬標的にされてきました。
実際に、米国で新たに診断されたがん症例のうち、11.6%でKRAS変異が認められたそうです。
頻度の高いKRAS変異にはG12D、G12V、G12Cの3種類が存在し、膵管腺がんや大腸がんなどによく見られます。
そして、最近Amgen社からKRAS G12C阻害剤が上市され、KRAS変異を標的とすることの妥当性自体は示され始めています。
しかし、最も重要なKRAS G12D変異に対して作用する薬剤はまだ存在せず、世界的に求められている薬剤です。
中外製薬は環状ペプチドでpan-RAS阻害剤を開発しており、大塚製薬も着手しているそうです。
ASP3082は高いポテンシャルがある
アステラス製薬が最近Ph1を開始したASP3082はKRAS G12Dをターゲットとした標的タンパク質分解誘導剤です。
Ph1試験は、ASP3082単剤もしくは抗EGFR抗体との併用 (大腸がんのみ) で実施されています。
実際に、非臨床では以下のような結果が得られているようです。
(一部は学会発表から引用)
- KRAS G12DとE3リガーゼに直接結合し、複合体を形成
- KRAS G12D変異膵臓がん細胞において、KRAS G12Dを分解し、ERKのリン酸化を阻害
- KRAS G12D変異膵臓がん細胞に対して増殖抑制作用を示したが、KRAS野生型がん細胞に対しては示さない
- KRAS G12D変異を他のタンパク質よりも選択的に分解することを示唆
- in vivoにて、KRAS G12D変異PDAC腫瘍が用量依存的に有意に増殖抑制
- Xenograftモデルにおいて持続的な血中濃度を示し、ASP3082の濃度を維持する期間に応じてKRAS G12D変異タンパク質濃度を減少させた
また、ASP3082に関連する特許は以下ですね!
何のE3リガーゼを利用しているのかはケミストじゃないので分からなかったです。。。
誰か詳しい方かアステラス製薬の中の方、教えてください!
アステラス製薬の標的タンパク質分解誘導での強み
本発表の中では、アステラス製薬の標的タンパク質分解誘導における強みが紹介されていました。
特に、KRAS G12Dについては以前から阻害剤創出を目指して取り組んできたため、弱いながらも結合する化合物のアセットを複数持っていたことがスピードアップに役立ったそうです。
こういった化合物アセットを複数の標的タンパク質に対しても持っていることは、内資企業として低分子を長年やってきたアステラス製薬の強みだと思います。
また、化合物最適化には、研究者の専門性とコンピューターによるモデリングを統合したシステムを用い、着手からわずか5ヶ月でASP3082を同定したそうです。
これもやはり長年培ってきた低分子創薬力の強みが生きた点だと思います。
長年低分子をやってきた内資企業にはかなりフィットするモダリティなのかな?
今後の展開と応用性
もちろん、ASP3082以降の展開は考えられています。
以下の戦略が主な今後の例になります。
- 他の標的タンパク質への応用展開
- 他の標的タンパク質にアクセスできるバインダーを創製することで、複数の適応症や疾患領域へ展開
- 新規E3バインダーの創製
- 他のE3リガーゼにアクセスできるようなE3バインダーを創製することで、タンパク質分解誘導剤の特徴を発揮
- パートナリング
- 外部の技術等を獲得し、社内専門性と融合
特に、現在提携しているFIMECS社のRaPPIDS™技術を活用することで、より素早い化合物の最適化プラットフォームの構築を計画しているようです。
また、FIMECS社は独自のE3リガーゼXIAPに対するE3バインダーを用いた創薬開発のほか、新規E3バインダーの探索も行っています。
さらに、アステラス製薬は将来的な戦略として他疾患への応用も見据えています。
1st Wave:変異KRAS、pan-KRAS分解誘導剤
2nd Wave:KRAS以外のがん関連標的
3rd Wave:がん以外の標的 (免疫関連標的など)
新規E3バインダーの探索や他臓器・他疾患への応用は他社も力を入れている定石ですね。
機関投資家からの質問
ASP3082について、初めの適応がん種は何を想定しているのか?
最初は大腸がんを想定している。しかし、他のKRAS G12D変異の割合が多い「膵管腺がん」、「子宮体がん」などへも拡大を考えている
ASP3082の成功確率はどれくらいを見込んでいるのか?
KRAS G12D自体のターゲットとしてのポテンシャルがかなり高いことは考えている。しっかり臨床でKRAS G12Dを分解出来ていれば薬効は期待出来る。
また、現在実施中のPh1試験では組織へ薬剤が到達していることはおおよそ確認出来ており、血中濃度も現時点では問題ない。
Ph1のデータは2023年度に出る予定
他社の標的タンパク質分解誘導技術との違い
ASP3082については、KRAS G12Dを昔から研究していたアドバンテージがあった。また、他のターゲットもいくつかあることは強みとして認識している
また、「標的タンパク質バインダー」と「E3バインダー」と「リンカー」の3つのパーツを組み立てる技術もアステラスの強み
さらに、E3バインダーで独自性の高いものをもっている (外部のものも含む)
なぜASP3082をこれだけ早いスピードで臨床入り出来たのか?
ASP3082については、モダリティ着手から2年で臨床試験入りを達成した。
その要因として、様々な試験をパラレルで進めたことと、元々モデリング技術の高さを考えている。
また、近年の組織構造の改編によって判断速度が向上したことも貢献している。
会社全体として自信を持てる前例である。
個人的な見解
遺伝子治療よりも良さげじゃない?
モダリティ着手からINDまで2年は凄いと思いますね。
やはり低分子創薬では圧倒的な積み重ねがあり、安全性や動態などの試験もテンプレが決まっていて、素早く実行出来るのでしょう!
確かに遺伝子治療も夢があるけど、標的タンパク質分解誘導剤の方が堅実な印象ですね〜
現状で、「遺伝子治療」「がん免疫」、「再生と視力の維持・回復」、「ミトコンドリア」が他のPrimary Focus領域だけど、一番有望に見えるな〜
競合優位性はどこまで出せるのか?
この標的タンパク質分解誘導はもちろん世界中で注目されている領域です。
これから参入して、Arvinas社やKymera社に勝てる技術プラットフォームを構築出来るのかが重要になりますね。
この領域こそ、どこか技術持ってる海外会社を買収すれば良いのに!
でも、機関投資家も聞いてましたけど、標的タンパク質分解誘導の3つのパーツのうちで、どのパーツがアステラス的なウィークポイントなんですかね??
足りない部分が結構明確に分かってそうなんで、買収・提携する企業も選びやすい気がするな〜
遺伝子治療は多分開発中止してる原因分かってないでしょ。。。
最後に
さて、今回はアステラス製薬の2022年R&Dミーティング「標的タンパク質分解誘導剤」をまとめてきました。
個人的にはアステラス製薬の強みが存分に生きている領域で、ほとんど自前で進めている点でもかなり期待出来ると思います。
Arvinas社のARV-471が良好な結果を出したことからも、標的タンパク質分解誘導剤自体のコンセプトは正しいことが見えてきている様子です。
今後ASP3082を皮切りにどう注力していくのかが楽しみですね!
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