【がん免疫トップベンチャー】ブライトパスバイオの強みと将来性を徹底解説

バイオベンチャー分析

こんにちは、ティーダです。

今回は、がん免疫に注力した創薬を展開する「ブライトパス・バイオ社」について、現状と将来性を徹底的に解説します!

同社は、国内のバイオベンチャーの中では最もがん免疫領域に注力し、複数のパイプラインを持つ企業の一つです。

参考にしたのは、ブライトパス社のHPやIR資料です。



ブライトパス・バイオってどんな会社?

ブライトパス社は、久留米大学医学部の伊東恭悟教授が実施したがんペプチドワクチンの研究成果を基に、2003年に設立されたベンチャーです。

2015年にマザーズ上場を果たしています。その時は完全にがんワクチンのみでの上場でした。

しかし、2016年から「抗体医薬」と「細胞療法」に着手し、現在パイプラインには複数モダリティが存在します。

ビジネスモデル

収益項目としては、通常の創薬型バイオベンチャーと同様で、以下を想定しています。

  • 契約一時金収入:
    ライセンスアウトや共同研究開発の契約締結時に得られる収入
  • マイルストン収入:
    導出先企業での導出品の研究開発の進捗に応じて得られる収入
  • ロイヤルティ収入:
    導出先企業での導出品の売上高に応じて分配される収入

しかし、現状では売上高はほとんど上がっておらず、2021年の売上高は200万円しかありません。

そして、営業利益は18億円近くのマイナスです。

他のベンチャーでは、技術を売ったり、試薬・サービスを販売することで黒字化に取り組んでいるベンチャーが多いです。

ブライトパス社はある意味「創薬一本足打法」で、当たれば大きいですが、当たるまでが厳しいという戦略です。

  • 平均年収は866万円 (平均年齢45.9歳、平均勤続年数2.8年) です。
    典型的なベンチャーの雇用状態で、研究員のサイクルはアカデミア以上に早そうですね。
  • 時価総額は58億円です。 (2022年4月時点)

研究開発戦略:がん免疫全般を幅広く標的に

がん免疫療法とは?

免疫システムに働きかけ、免疫システムががん細胞を排除する手助けをする治療法です。

以下図の様に、がんを免疫細胞が攻撃するためにはステップが複数あります。
しかし、それぞれのステップでブレーキがかかっているポイントがあります。

そこで、PD-1抗体などではブレーキを解除してあげることで、患者の抗腫瘍活性を上げることが可能です。

実際、ブライトパス社の候補品も、各免疫チェックポイントでブレーキを解除するようなデザインになっています。

確かな技術力

ブライトパス社は、国際的ながん学会 (SITC, AACR) での発表や、査読付き論文への投稿が比較的多いです。

やはり、この外部発表は確かな技術力や研究力から出る成果なので、研究レベルは高いのでしょう。

現在開催中のAACR 2022でも国内バイオベンチャーとしては最多の計4件の非臨床研究成果を発表します

  • piggyBac トランスポゾンを利用した HER2-CAR-T(BP2301)の固形がんを対象とした開発
  • in vivoT 細胞誘導データに基づく当社独自のネオアンチゲン解析パイプラインの構築
  • 新規抗体医薬 BP1200 は CD73 を標的として腫瘍微小環境を改善し、抗腫瘍効果を高める
  • BP1209 個別化ネオアンチゲン・ワクチンは樹状細胞を標的として高い抗腫瘍効果を発揮する

しかし、明確な競争優位性を出せるような技術や経験等は特に明示されておらず、バイオベンチャーの中では珍しい部類です。



開発品の現状

ブライトパス社には現在治験段階の製品が2個と、非臨床段階の製品が9個あります。

その中でも臨床に進んでいるものと、注目すべき製品について解説します。

GRN-1201 (4種混合がんワクチン)

GRN-1201は、欧米人の5割を占めるHLA型に結合するペプチド4種で構成されるがんペプチドワクチンです。

現在、メラノーマを対象とする単剤Ph1試験と、非小細胞肺がんを対象にPD-1抗体と併用するPh2試験が実施されています。

GRN-1201を構成する4種のペプチドは、久留米大学のcDNAライブラリーからスクリーニングされてきたもので、患者の体内でがんに対する免疫を効果的に誘導する能力の高いがん抗原ペプチドです。

現在、肺がんに対するPh2試験の中で、腫瘍退縮が認められた患者において、含有ペプチドに対する免疫応答が確認されています。

がんワクチンはPh1~2の免疫応答が認められるまでは、ほとんどの会社で成功しています。

しかし、Ph3でのPoCを獲得するのが難しい!!
さて、今まで世界で誰も成功していないがんワクチンで、果たしてPoCを獲得できるのか??

iPS-NKT

NKT細胞は、がん細胞を直接殺傷すると同時に、他の免疫細胞を活性化させる作用をもつ免疫細胞です。

NKT細胞が活性化することで、サイトカインを産生し、NK細胞の活性化や樹状細胞の成熟化を促します。
成熟した樹状細胞は、T細胞を増殖・活性化させることで、相乗的に抗腫瘍効果が高まると考えられています。

高い抗腫瘍効果が見込まれるNKT細胞ですが、ヒト末梢血中T細胞のうち0.01%-0.1%しか存在しないため、体外に取り出し、治療に必要な細胞数まで増殖させることが難しいという課題がありました。

そこで、理研の古関明彦先生を中心に、iPS細胞技術によってNKT細胞への分化能力を持つ多能性幹細胞を増殖させた後、NKT細胞へ分化誘導することで、治療に十分なNKT細胞の供給を目指す研究が進められてきました。

その結果、現在は以下のことを達成しています。

  • NKT細胞に分化可能なiPS細胞のマスターセルバンクを樹立
  • GMP下でのiPS細胞からのNKT細胞への再分化誘導技術を確立

そして、千葉大病院にて、頭頚部がんを対象とする医師主導Ph1試験が2020年6月から開始されました。

BP2301 (HER2 CAR-T)

BP2301は、信州大学の中沢洋三教授と京都府立医科大学の柳生茂希助教が確立したHER2抗原を認識するHER2-CAR-T細胞です。
現在、固形がんを対象とする医師主導治験の準備をしています。

これまでのCAR-T療法ではウイルスベクターで遺伝子導入していましたが、この方法では細胞が短期間で疲弊してしまい、固形がんへの適応に課題がありました。

これに対し中沢洋三教授らの非ウイルス遺伝子導入法と、ブライトパス社独自の特殊なCAR-T細胞培養法により作製したCAR-T細胞は、従来のT細胞よりも長期生存が可能なメモリーフェノタイプが多く含まれるT細胞(TSCM/TCM) を使用することが可能になります。

メモリーフェノタイプのT細胞には幹細胞性があり、抗原刺激によってエフェクター細胞に分化します。このようなメモリーT細胞がリッチなため、投与されたCAR-T細胞が体内で継続的に増殖し、より持続的な抗腫瘍効果が期待されます。

また、非ウイルス遺伝子導入法では、ウイルス遺伝子導入法に比べて、設備や操作が簡便であるという利点があります。

多くのCAR-T療法を扱う会社が、固形がんに対する治療法を模索しています。

そんな中で、このブライトパス社独自の方法が固形がんへの治療効果を増強するならば、多くのメガファーマ等からお声がかかることはあり得ると思います。

これこそ、CAR-T療法のプラットフォーマーになり得る技術ですね!

他の開発品

  • BP1209 (次世代ネオアンチゲン)

「抗体」と「ネオアンチゲンペプチド」を結合した次世代ペプチドワクチンです。

具体的には、「樹状細胞に発現するタンパク質に対する抗体」と「がんワクチン抗原」を結合することで、樹状細胞への抗原の送達を効率化し、腫瘍特異的T細胞の活性化を促進することを期待しています。

  • BP1210 (TIM3抗体)

T細胞の疲弊時に発現するタンパク質TIM-3に着目した抗体です。

従来のTIM-3抗体では、複数存在するリガンド (PS, CEACAM1, Gal-9, HMGB1) の結合を同時に阻害できず、TIM-3を介した免疫抑制を完全に抑えることが出来ませんでした。

そこで、二重特異性抗体技術を駆使し、PSとGal-9の結合を同時に阻害するバイパラトピック抗体を創製しました。

実際に他社抗体やそれぞれ片方を阻害する抗体よりもT細胞の活性化が強く認められる結果が得られています。

このTIM-3抗体は面白いと思います。

一つ疑問に思ったのは、「複数のTIM-3のリガンド中で、どれが最も免疫抑制に寄与しているのか」です。

もし、それがPSやGal-9なら、それらを阻害するBP1210は非常に価値が高いと思いました。

個人的な見解

キラッと光る強みが見えない

がん免疫は世界中が注目している領域です。
もちろん有名なバイオベンチャーは革新的な技術を1, 2個は持っています。

しかし、ブライトパス社にはまだ企業としての強みが形成されていないように見えます。

もちろん「独自のCAR-T作製法」や「iPS-NKT」、「独自のTIM-3抗体」など、珍しい製品はありますが、それらを強みに出来るかはしばらく分からないです。

それそろ創業20年が経ちますが、いつまでに強みを確立できるのでしょうか?

導出品がまだないけど、開発費とかは大丈夫?

2003年に設立なのに、導出品も少なく、臨床品も少なく、提供できる技術もありません。

直近では新規株式を発行し、22億円を獲得しています。

がんの治験は非常に費用が高いので、Ph1~2とは言え、このまま継続できるのでしょうか?

資料内では、現在は「先行開発投資段階」にいることを主張していますが、いつ頃に具体的な収入が入るのでしょうか?

少し先が見えにくい状態で、現段階でこの企業への転職や投資はなかなかチャレンジングだと感じます。

最後に

今回は、がん免疫注力ベンチャーとして「ブライトパス・バイオ社」を解説してきました。

いくつかの興味深いプロジェクトは進んでいるものの、まだPoC獲得やライセンスアウト、上市まではほど遠く、厳しい状況だと思います。

がんワクチン単独から転向したことは良い判断だと思いますが、細胞療法は少し時間がかかるモダリティだと思います。

今後、iPS-NKTのPh1結果に特に注目です!

最後まで読んで頂きありがとうございました!

【絶対読むべきの書籍紹介】

バイオベンチャー分析
スポンサーリンク
ティーダをフォローする
ティーダの製薬業界研究blog ~製薬の全てをそこに置いてきた~

コメント

タイトルとURLをコピーしました