こんにちは、ティーダです
今回は、現在続々と臨床入り/承認が始まっているバイスペシフィック抗体 (二重特異性抗体) について徹底解説していきます。
バイスペシフィック抗体って聞いたことあるけど、詳しく知らない〜
ガン領域に良く使われてる印象。私は領域違うけど、関係あるの?
バイスペシフィック抗体は現在あらゆる疾患への応用が期待される超重要モダリティです!
是非今のうちに勉強しておきましょう!
バイスペシフィック抗体 (二重特異性抗体) については解説すると長いので、2回に分けて記事にします。
まず初回である本記事で、「バイスペシフィック抗体の歴史、基本的なメカニズム、現上市品のメカニズム」について紹介します。
次回の記事では、基本を踏まえて、「世界最先端のメガファーマ/バイオベンチャーの最新トレンド」を紹介します。
この2本を読むことで、バイスペシフィック抗体について、周りと圧倒的な知識量の差を付けることが可能です。
バイスペシフィック抗体 (二重特異性抗体) の歴史
ここでは、バイスペシフィック抗体の発祥と現在に至るまでの足跡について簡単に紹介します。
そもそもバイスペシフィック抗体とは?
例えば、CD3とCD20を片腕ずつ認識する抗体では以下の様な形になります!
抗体自体の形は様々ですが、基本コンセプトは同じです。
概念提唱から現在まで
バイスペシフィック抗体の根源である「2つの抗原を別々で認識する抗体」という考えは、1960年頃に初めて提唱されたそうです。
ハイブリドーマによる抗体作製技術 (1975年) の以前から、バイスペシフィック抗体について考えていた人がいたのは驚きですね!
以下にざっくりとしたバイスペシフィック抗体に関する足跡を表した図を置いておきます。
2022年現在は5製品が承認を受けており、約50品以上が臨床入りしています。
開発品全体としては、ガン領域が最も多く、その中でも細胞間を橋渡しするメカニズム (BiTE) の製品が多いです。
ガン以外の適応症におけるバイスペシフィック抗体の参入は、2017年にFDAが血友病A治療薬として中外製薬のEmicizumab (凝固因子Ⅸa × X) を承認したのが最初です。
また、最初に承認されたCatumaxomab(CD3×EpCAM)は既に上市を取り下げています。
撤回の理由は、副作用が高く、使い勝手が悪いため採算が取れなかったことが原因だそうです。
2014年からは承認ラッシュが続いており、技術としての収益化の時期が来ています。
現在、後期開発品 (Ph3) も非常に多いため、今後まずます承認数は加速するでしょう!
バイスペシフィック抗体の5種類の基本メカニズム
ここでは、バイスペシフィック抗体の主な作用メカニズムについて5種類に分けて解説します。
細胞間の橋渡し
このアプローチは主に、「免疫細胞上の受容体」と「ガン細胞特異的な抗原」を認識する抗体です。
「免疫細胞とガン細胞の距離」を近づけ、同時に免疫細胞に刺激を入れることで、免疫細胞によるガン細胞の攻撃を引き起こします。
現在上市されている「Blinatumomab」、「Mosunetuzumab」はこのアプローチの抗体です。
近づける免疫細胞は「CD8T細胞」が最も一般的ですが、現在では「NK細胞」や「マクロファージ」、「γδT細胞」など多岐に渡って開発が進んでいます。
最も大きな利点は、MHCによる制限を受けることなく免疫細胞の活性化を引き起こせることです。
さらに、近年では感染症領域に対しても同様の技術が使われています。
具体的には、「HIV感染細胞の特異的抗原」と「T細胞」の橋渡しなどが臨床で評価されています。
受容体の阻害
このアプローチでは主に、発ガン性の複数のチロシンキナーゼを同時に阻害するデザインの抗体です。
単一のチロシンキナーゼ阻害剤では、別のシグナルを迂回してガン細胞が活性化することで耐性化が起こります。
そこで、複数のチロシンキナーゼを同時に阻害することで耐性化を防ぐことが期待されています。
現在上市されている「Rybrevant」はこのアプローチの抗体です。
ガン領域以外にも、応用は進んでおり、既存のターゲットを1つの抗体で同時に阻害することで薬効を増強する目的で開発が進んでいます。
先日Roche (中外製薬) から出た、「Faricimab」はこのコンセプトの抗体ですね!
同じターゲット上の別エピトープを狙うことで、結合強度を高めて、阻害活性を上げている開発品もあるよ!面白い!
受容体の活性化
これは、2種類の抗原が共発現している細胞のみに活性化シグナルを入れるようにデザインされた二重特異性抗体です。
例えば、BFKB8488A(Roche)があります。
これは、FGFR1CとKlothoβ (KLB) に対するバイスペシフィック抗体です。
これらの受容体を共標的化することにより、KLBとFGFR1Cを共発現している組織にのみシグナル伝達を活性化し、他の組織でのFGFR活性化による好ましくない反応を抑えることができると期待しています。
また、中外製薬では「ガン細胞と免疫細胞を引き寄せる」と同時に「免疫細胞への強い刺激を入れる」というデザインの抗体 (Dual-Ig技術) も存在します。
以下の中外製薬のR&D説明会で紹介されている技術です!是非読んでみてください!
共役因子の模倣
これは、酵素-基質複合体に対するバイスペシフィック抗体です。
この方法で最も有名な抗体は、我らが中外製薬のEmicizumab (ヘムライブラ) です。
ヘムライブラは、凝固因子IXaと凝固因子Xに対する二重特異性抗体です。
血友病A患者では、凝固因子Ⅷaが機能異常/欠損しているため、凝固因子IXaによる凝固因子Xの活性化が起こりません。
そこで、ヘムライブラは凝固因子Ⅷaの代わりとして、凝固因子IXaと凝固因子Xを橋渡しすることで、凝固因子Xの活性化を引き起こします。
このようにバイスペシフィック抗体によって「生体内の酵素-基質反応を模倣するアプローチ」になります。
個人的には、このアプローチこそがバイスペシフィック抗体の真髄と考えています!
中外製薬のヘムライブラ誕生秘話については以下の書籍で詳しく書いてます!是非読んでみてください
目的領域への遊走
これは、バイスペシフィック抗体の「第一特異性」を「第二特異性の輸送」のために利用するアプローチです。
このアプローチで代表的なのは、トランスフェリン受容体に対する抗体を使用して、血液脳関門を透過する抗体をデザインするアプローチです。
他にも、緑膿菌やエボラウイルスに対するアプローチも研究されています。
最後に
今回は、バイスペシフィック抗体に関する解説の第一弾として、「バイスペシフィック抗体の歴史と主な作用メカニズム」について解説してきました。
単純にバイスペシフィック抗体といっても複数のアプローチがあり、治療戦略の幅が広がっていることが分かりますね!
次回は、上記のアプローチを踏まえて、バイスペシフィック抗体の世界最先端の技術のトレンドについて解説していきます!
一緒に勉強していきましょう!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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