少し時間は経ちましたが、2021年9月7日に開催された小野薬品工業のR&D説明会について解説いたします!
小野薬品のR&D説明会は他社と比べるとかなりシンプルな形式になっています。
開発候補品を列挙して、各薬剤のメカニズムや非臨床結果を中心に、少しだけ臨床結果を解説していくような形式です。
全体概観
本説明会で紹介されたのは5つの化合物です。
いずれもPh1, Ph2の段階で、これからPoCを確立していく段階のプロジェクトになります。
ニューロロジー領域を4つ、オンコロジー領域を1つ紹介しています。
ONO-2910 (糖尿病性多発神経障害)
こちらはシュワン細胞という神経軸索を覆う細胞に対して作用する化合物になります。
非臨床の結果から、末梢神経の障害の修復作用を期待しています。
神経細胞の軸索は髄鞘という脂質層に取り囲まれています。
特に末梢神経では、シュワン細胞という細胞が分化することで髄鞘を形成しています。
この髄鞘が高血糖によって傷害を受けることで、髄鞘に覆われている神経軸索が変性を起こし、神経障害が起こることが知られています。
そこで、ONO-2910は
- シュワン細胞が髄鞘に分化するのを促進
- 髄鞘が傷害を受けて脱落することを抑制
によって、薬効を示します。
実際に、In vitroでのシュワン細胞の分化能の向上や、In vivoでの用量依存的な疼痛関連行動の抑制が確認されています。
ONO-2909 (ナルコレプシー)
こちらはプロスタグランジンD2 (PGD2) 受容体の拮抗剤です。
睡眠と覚醒は、睡眠物質による睡眠中枢への作用と、モノアミンによる覚醒中枢への作用のバランスによって調整されています。
そして、睡眠物質の一つであるPGD2が睡眠を誘発することが知られています。
そこで、PGD2の受容体に対する拮抗薬を作用させることで、ナルコレプシーによる過剰睡眠を抑制できると考えています。
実際に、ラットの断眠モデルなどで用量依存的な薬効が認められています。
ONO-2808 (神経変性疾患)
中枢神経では、オリゴデンドロサイトという細胞が分化して、神経細胞を取り囲む髄鞘を形成します。
しかしながら、特定の神経変性疾患患者では、異常なα-シヌクレインが凝集・蓄積することで、髄鞘が脱落し、神経細胞も死んでしまいます。
そこで、S1P5受容体作動薬であるONO-2808を作用されることでα-シヌクレインの凝集・蓄積を抑制できるデータが得られています。
実際に、In vivoの自己免疫性脳脊髄 (EAE) モデルにおいて、発症前に予防投与をすることで、用量依存的に症状を改善することが示されています。
ONO-4578 (固形ガン)
こちらの薬剤はEP4受容体 (PGE2がリガンド) 拮抗薬です。
腫瘍細胞から産生されたPGE2が攻撃細胞 (細胞障害性T細胞)、抑制性細胞 (MDSC、M2マクロファージ)に作用することで、免疫細胞による腫瘍への攻撃を抑制することが知られています。
そこで、ONO-4578によって、MDSCや細胞障害性T細胞に発現しているPGE2受容体 EP4を阻害することで、抑制を解除出来ると考えています。
実際に、マウスガン移植モデルにおいて、ONO-4578を投与することでMDSCやM2マクロファージの浸潤細胞数を減らし、DCや細胞障害性CD8T細胞を増加させました。
(スライド内に単剤での薬効結果がないことから、単剤ではマウスモデルですら薬効はない。。。)
さらに、PD-1抗体と併用することで、薬効が増強することを確認しています。
Ph1を実施したところ、
- 単剤では3/10例で安定を認めた。完全奏功、部分奏功はなし
- PD-1抗体との併用では、2/21例で部分奏功を認めた。
ONO-2017 (てんかん)
こちらは韓国のSK Biopharmaceuticals社から導入した薬剤になります。
すでにアメリカと欧州ではそれぞれ別の会社によって上市されている薬剤になります。
作用機序としては、ナトリウムチャネルを阻害することと、GABA受容体の機能を増強することで、脳の神経細胞の異常な興奮を抑制することが可能です。
こちらは既に臨床でも非常に高い有効性を示しており、Lancet Neurolに論文が出ています。
既存薬に比べても非常に高く、患者によっては、てんかんの発症をゼロにすることも可能であることが示されています。
機関投資家の質問
Q:今回紹介した開発品について自社でやるのか?それとも導出するのか?
A:基本は自社での開発と販売を狙っていきたいと考えている。
Q:ONO-4578はBMSから開発権を返還されているが、どうやって単独でグローバル開発をやるのか?
A:国内でPh1が進んで良い結果が出て来れば、オプジーボと併用で再度BMSが開発を持ちかけてくれると考えています。
Q:ONO-2910での神経修復は確認しているのか?
A:基礎研究では神経修復は確認出来ている。
Q:武田のナルコレプシー薬のマウスモデルでのデータよりも結果が弱く見えるけどどうか?
A:モデルが違うため比較は出来ないけれど、十分有効性があると思う。
Q:オプジーボの特許切れ後のクリフに対して、現状のパイプラインで十分なのか?
A:十分とは思っていないが、これらの化合物について欧米等で上市できればクリフは十分超えられると考えている。
個人的見解とコメント
全体的にサイエンスとしては分かりやすい発表だったと思います!
非臨床薬効が微妙な開発品多くない?
全体的に非臨床モデルでの薬効が弱く、ヒトで本当に効果が出るのか怪しい印象を受けました。
論文ならいいけど、臨床で本当に効くの?という疑問を持ちますね。
特に、ONO-4578については論文等のガンワクチンの方が薬効は高いです。
そんなガンワクチンでも臨床でまだ一つも成功してないんです。。。
中枢系に注力してるのか?ガンは導入品中心?
パイプラインや発表を見ているとガン関連は他社の導入品がメインで、自社品は中枢系に多い印象があります。
研究所としてはどこに注力して研究しているのかが分からないです。。。
せっかくオプジーボがあるのに、ガン研究の強みは構築できなかったのでしょうか?
自社開発・自社販売にこだわってる印象
多分オプジーボについて、BMSにめっちゃ中抜きされてるからよく思ってないのかな?と感じた。
投資家質問への返答でもかなり自社開発・自社販売にこだわりを持っている様子でした。
最後に
オプジーボのパテントクリフを乗り越えられるだけの大粒がない印象です。
開発ステージ後期に品目が少ないことから、2031年のオプジーボクリフには間に合わないかもしれないと思いました。
今後もメガファーマのガン開発品の国内開発を受託する形で収益化を目指すしかないのでしょうか?
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